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雇用統計を受けソフトランディング期待高まる

12月の米雇用統計は多くの項目で市場予想以上となり、早期の利下げ観測が後退したことから米金利は上昇した。


5日発表の12月の米雇用統計は

  • 非農業部門雇用者数(前月比増): 216千人(市場予想170-175千人)
  • 失業率: 3.7%(同3.8%)
  • 平均時給の伸び: 前月比0.4%(同0.3%)、前年同月比4.1%(同3.9%)

と、特に非農業部門雇用者数について市場予想と前月を上回った。
労働参加率や失業期間などに悪化がみられるものの、市場の受け止めはポジティブだったようだ。
景気が堅調とみて長短金利が小幅に上昇し、株式市場も小幅上昇で反応した。
今の米国株市場は、少々の金利上昇では崩れない楽観に包まれているようだ。

ブラックロックのリック・リーダー氏はBloombergで、今回の雇用統計を「堅調」(solid)と位置付けている。

「経済、市場・間違いなく雇用についてみんな『ああ、景気後退、深い景気後退に陥る』と言うが、それはデータに表れていない。・・・
経済鈍化は確かに状況を説明しているが、すぐに崖から落ちるような話では間違いなくない。」

昨年10月、同社ラリー・フィンクCEOは2025年の景気後退入りの可能性に言及した。
同社では2024年の景気後退入りを予想していない。
市場では、こうした見方がますます増えているようだ。

政府からは、ジャネット・イエレン財務長官も今回の強い雇用統計に関連して米経済の好調をアピールしている。

「経済について多くの悲観論があったが、不適切であることが明らかになった。
1年前にはほとんどの予想者が景気後退入りを予想したが、そうならなかった。」

イエレン長官はCNNで、現状が「ソフトランディング」と呼べると述べ、継続を期待した。
景気を損なわずにインフレを退治するのは難しいとしたものの、雇用は良い状況が継続していると説明。
平均時給の伸びがインフレより高くなったことで、家計が一息ついていると分析した。
(ただし、これはもちろんインフレ圧力になりかねない。
12月は労働時間が微減だが、労働時間が堅調ならインフレ圧力を心配すべきだろう。)

米国でのインフレ退治では定石どおり、FRBが需要面、政府が供給面を主に担当した。
CNNキャスターから「あなた方はやり遂げたのか?」と質問されると、イエレン長官はにこりと笑った後に答えている。

「アメリカの人々がやり遂げたのだ。
アメリカの人々が毎日働き、労働市場に参加し、新事業を生み出した。」

この説明は綺麗ごとである反面、米国の強さを象徴する言葉でもあろう。
経済が風邪を引くたびに政府にねだるような国民の経済は強くならないし、経済の主役を政府と考える政府なら経済をむしろ悪化させてしまうのではないか。

イエレン長官は、ベン・バーナンキ議長の後任、ジェローム・パウエル議長の前任のFRB議長。
アラン・グリーンスパン議長の時代から見ても、(1期だけだったとはいえ)在任期間が最も無風に近い議長だった。
イエレン議長選任の際、経済予想の巧みさが理由の1つに挙げられていた。
バーナンキ議長の為しえなかった金融政策正常化に着手し、在任期間中を無風で通した手腕はやはり経済予想の巧みさにあったのだろうか。
もしそうだとすれば、イエレン長官の強気発言は頼もしい限りだ。
ただし、最近はすっかり政治家らしくなったとの見方もある。
「ソフトランディングと呼べる」と言った直後に「継続を期待する」というあたり、あまり真に受けてもいけないのかもしれない。

ローレンス・サマーズ元財務長官はBloombergで、足元の景気・インフレの状況が良いと認めた上で、まだリスクが多く残されていると警戒を緩めなかった。

サマーズ氏は昨年9月、3つの着地シナリオ(ソフトランディング、ノーランディング、ハーダーランディング)に1/3ずつの確率を想定していた。
その後の状況から、過去珍しかったソフトランディングの確率が大きく高まったことを認めている。
それでも、「金融政策にラグをもって反応し景気後退入りする」可能性が残ると話した。

「私の感覚では、市場は現状のインフレ・リスクを過小評価しており、ゆえにおそらく今後のFRB利下げ幅を過大評価している。」

金利の面で市場が楽観側に傾いていると指摘したものだ。
サマーズ氏は景気が底堅いと考え、最近の金利動向について2つの解釈がありうると説明する。

《中立金利が大きく上昇した》または《考えていたより経済の金利感応度が下がっている》と示唆される。
これらいずれに場合でも、現時点で多くの人が予想するより利下げの緊急性は少し低くなる。

ここで注意しておきたいのは前者の中立金利だろう。
(中立金利とは曖昧な概念ではあるが、目の子のバランス感覚を持つにはやはり便利だ。)
ディスインフレの時代、米国の実質中立金利については1%以下という見立てが多かったように思う。
12月のFOMC見通しでも「longer run」の名目FF金利とPCEインフレから計算される実質FF金利は0.5%であり、実質中立金利もこの近傍にあるとの推測が働く。
ところが、最近ではこれが上方にシフトしたのではないかとの意見が多く出てきている。

仮に、米経済の潜在成長率の上昇にともない実質中立金利が1%ポイント上昇し2%になっているとすれば、2%物価目標の達成時の名目中立金利は4%となる。
現在の名目FF金利誘導目標5.25-5.50%は確かに高く、4%まで5-6回の利下げがありうることになる。
これが現在の(年末時点の)市場織り込みだ。
一方、市場金利を見れば、2年が4.4%、10年が4.0-4.1%。
すでに、着地水準近くまで低下しており、利下げの恩恵を市場はほぼ織り込み済みと解釈できる。

問題は、実質中立金利2%、インフレ2%という仮定が適切かであろう。
いずれかあるいは合計で例えばあと1%ポイント高いと見るなら、利下げ余地は1%ポイント減り、市場金利は上昇すべき、となってしまう。


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