金融緩和に潜む副作用と未知のリスク:門間一夫氏

日銀で調査局長などを歴任した門間一夫氏が、現状の枠組みの金融緩和継続について疑問を呈している。
過度な金融緩和には「副作用」だけでなく「未知のリスク」も存在するという。


説明責任を求められる中央銀行としては、理論で正しいとされていることに反する政策は採れない。
どんなに難しくても2%程度のインフレを必ず実現する、そのためならいつまででも低金利を続ける、という政策姿勢を保持せざるを得ないのである。

門間氏がダイヤモンド・オンラインで、物価目標に固執せざるをえない日銀の胸の内を書いている。

まるで往年の人気ドラマ「踊る大捜査線」で描かれたような官僚主義ではないか。
「事件は現場で起きている」という話は、なかなか公的機関では通用しないようだ。
問題は「理論で正しい」ことが現場で理論通り効果を挙げない場合だろう。
《景気はいいから結果オーライ》というような考え方は厳に慎むべきだ。
過去はともかく将来を決めるのは、政策の裏付けとなった理論の現場での有効性にある。
そして、ほとんどの政策はコストをともなう。

「もちろん、低金利の長期化に弊害がないのであれば、たとえ何十年でもそれを続ければよい。
 しかし、行き過ぎた金融緩和を背景にバブルが膨らみ、それがはじけて経済が大きく落ち込むというパターンを、世界はこれまで幾度となく経験してきた。」

門間氏によれば、金融緩和が金融不安定をもたらす可能性とは既知のリスクであり「副作用」だという。
一方、門間氏は、これ以外に「逆効果」を及ぼす「未知のリスク」が存在すると指摘する。
副作用とは異なり逆効果の場合、金融緩和を継続・強化するほどに当初の目的と逆の結果を生みかねないという。
門間氏は未知のリスクを4つ挙げている。

家計への「課税効果」
金利低下は預金者から債務者への所得移転を引き起こす。
代表的な経済主体で言えば、家計から政府への所得移転であり、これは隠れた税金(預金税)である。
ほとんどの預金利率がゼロ近傍にあるとすると、この預金税の税率は100%近いことになる。
消費増税が景気に悪影響を及ぼしデフレ的な効果を及ぼすとするなら、預金税はどうなのか。

リバーサル・レート
金融緩和が金融機関の金融仲介機能を削いでしまう。

ネオ・フィッシャリアン
「フィッシャー方程式に基づく通常の考え方は、予想インフレ率が金利水準に影響を与えるというものだが、ネオ・フィッシャリアンでは、長期的には金利から予想インフレ率への因果関係が強まる、と考える。」

金融緩和余地の枯渇
緩和余地がなくなれば、経済に「下方ショック」が起こった時、金融政策での対応ができなくなる。
フォワード・ガイダンスが可能になるのも緩和余地が残っているからだ。

金融緩和の是非はともかく、当初言われていたようなリフレ効果を異次元緩和、とりわけ2%物価目標は持っていなかったというのがフェアな言い方だろう。
こうした現実に対する門間氏のメッセージは単純明快だ。


「現実への当てはまりが良くない理論に沿って、低金利政策を長く続けているうちに、『逆効果』メカニズムのどれかが徐々に作用し始めている可能性は否定できない。・・・
簡単に証明できるほどの証拠がそろうのを待つのでは、遅すぎる。
少なくとも、世の中が標準的な理論通りに動いていないことは、すでに明らかになっている。・・・
確立された知見で予測も説明もできない世界に足を踏み入れている以上、『逆効果』という『未知のリスク』にも謙虚に向き合う必要があるのではないか。」

日本が今大幅な金融引き締めを行うことが得策と考えている人は稀有だろう。
一方で、2%物価目標を維持することに疑問を持つ人も増えている。
2%物価目標と日銀がすでに進めてきたステルス・テーパリングの間には、贔屓目に見ても論理の断絶があると言わざるをえない。
日銀はこれからも《正しいことをやる嘘つき》であり続けるつもりだろうか。

さて、門間氏はこのコラムでネオ・フィッシャリアンという考えを紹介している。
これは、利上げすればインフレが上がるという主張につながる考え方だ。
最近あまり聞かれなかったが、まだ唱える人がいるらしい。
Googleのニュース検索で《Neo-fisher》と検索すると、ドイツ語の検索結果が多く並んでいて微笑ましい。
このネオ・フィッシャリアンという考えはスティーブン・ウィリアムソン教授、ジョン・コクラン氏らが唱え、ジェームズ・ブラード セントルイス連銀総裁が関心を示していた。
ブラード総裁はハト派の論客だから、その総裁が関心を示したということは、完全な俗説でもないのだろう。
FPでは、同じくハト派のナラヤナ・コチャラコタ前ミネアポリス連銀総裁による批判を紹介したことがある。

ネオ・フィッシャリアンはフィッシャー方程式について革新的な読み方を提案する。

フィッシャー方程式とは
 名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率
実質金利を引き下げることが金融緩和だから、中央銀行は利下げにおいて政策金利(名目金利)を引き下げる。
ゼロ金利に到達するとそれ以上の名目金利の引き下げが難しくなる。
だから、人々にインフレ期待を植え付け、期待インフレ率を引き上げようとする。
名目金利が一定の下で期待インフレ率を引き上げれば、実質金利はさらに下がるというわけだ。
これが上方にある2%物価目標の根拠となっている。

ネオ・フィッシャリアンの考え方は、フィッシャー方程式を逆に読む。
実質金利は長期的には金融政策から独立しているとする。
すると、名目金利を引き上げることで期待インフレ率を引き上げることができることになる。

面白いが胡散臭い感じのする考え方だ。
ただ1つ言えることは「理論で正しいとされていること」にも、同様に《面白いが胡散臭い》話が満ち満ちていることだ。
《中央銀行が無責任な約束をすれば物価が上がる》、《マネタリー・ベースを増やせば物価が上がる》、《インフレが昂進すれば金融を引き締めればいい》、果てには多くの批判を浴びている《インフレが昂進すれば財政を引き締めればいい》、・・・
正しいとされていることも、正しいかどうかわからないことも、ずいぶんと相対的な正当性しか主張できないようだ。
学者というのは本当に《い~い仕事だな!》


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