量的緩和は手品のトリックにすぎない:ケネス・ロゴフ

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授が、次の景気後退について心配している。
通常の景気後退となった場合でも、FRBがやれることは多くないという。


「誰にもわからない。
もはや何が正常かさえわからない。
・・・
誰か確信をもって今後20年の見通しを語る人間がいたら、それはただの思い込みだ。」

ロゴフ教授が印CNBC TV18で、米10年債利回りについての見通しを尋ねられて答えた。
金融政策も政治も伝統的枠組みは無視され、かつては禁じ手とされていたような新たな手段が日常的に採られるようになっている。
もはや「正常」は存在せず、だから先行きが見通しにくくなった。

「金利が上昇せず低下するとの見方が多い。
しかし、マクロ経済に関するリスク管理という観点から言えば、逆に動きうるとの事実を考慮しなければいけない。」

元IMFチーフ・エコノミストは、先行きがわからないからこそ、リスク・シナリオが顕在化する可能性を無視すべきではないという。
通常の景気後退が起こる場合でも企業のデフォルトは多く発生するものであり、銀行システムへの波及度合いによっては大きな問題となりうるという。
そして、教授は、FRBがリスク・シナリオに対して十分な準備ができていないと指摘した。

「2.5%の利下げの余地はある。
しかし、典型的な景気後退では5-6%の利下げをしている。」

ジェローム・パウエルFRB議長は、多くの批判を浴びながらも、なんとかFF金利誘導目標を2.25-2.50%まで引き上げてきた。
あと数回ぐらいは引き上げられるかもしれないが、そこからゼロ金利まで引き下げるにしても下げ幅は2.5%あまりにすぎない。
これでは通常の景気後退への対処としても不十分だ。
さらに、ロゴフ教授は残さされたツール、FRBの量的緩和の性質を解説する。


「量的緩和は手品のトリックにすぎない。
私の本でもまとめたように多くの研究が、米国の量的緩和とは米政府の一部が別の一部の債務を買っているにすぎないことを示している。
FRBは名目上は独立した主体だが、すべては財務省に所有されており、財務省がその利益を保有している。
おそらくドイツがイタリアの債務を買っている欧州とは異なる性質のものなんだ。」

日本も状況は米国と同じだ。
政府・中央銀行を連結した《統合政府》という経済主体の中で勘定を付け替えただけなのが量的緩和政策だった。
だから、これだけでは多くの効果は望めない。
不思議なことに、日本ではリフレ派の人たちが、マネタイゼーション・債務増大の温床との批判をかわすために統合政府の考えを主張した。
つまり、一方では量的緩和を推しながら、一方ではそれが「トリック」にすぎないと言っていたに近い。
では、量的緩和の本質とは何だったのか。
ロゴフ教授は話す。

「量的緩和が何かしたとすれば、それは人々に確信を与えたということにすぎない。
FRBはこう言っているんだ。
『大丈夫だ、私たちは他にも手品のトリックを持っている。
景気後退が来てインフレ率がゼロになったら、インフレが2%を超えるようにあなたたちを確信させてあげる。』」

ところが、FRBは思いのほか健全な考えをしていた。
あるいは、腰が据わっていなかった。

「でも、何が起こったか。
インフレ率が2%に届くや否や、FRBは利上げを始めた。
だから、もう誰も確信が得られないだろう。」

量的緩和は市場の期待をアンカーすることで効果を発揮しようとした。
しかし、それは中央銀行が常に有言実行を貫いてこそ目が出てくるやり方だった。
サプライズを引き起こす中央銀行では期待をアンカーできない。

量的緩和にはもう1つ利点があった。
それは、長期国債を買い入れることによる長期金利引き下げの効果だ。
しかし、これも諸刃の剣であることは、最近の市場からのFRBへのバランスシート縮小に対するプレッシャーでも明らかだ。
中央銀行がバランスシートを縮小する構えを見せると、それが長期金利の上昇要因となり、市場を荒らしてしまうのだ。


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