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量的緩和が政府債務を短期化する:ラグラム・ラジャン
2021年8月5日

IMFチーフエコノミスト、インド中銀総裁を歴任したラグラム・ラジャン シカゴ大学教授が、あまり意識されていない量的緩和政策の弊害について指摘している。


本稿執筆時点で米10年債利回りは1.24%と、10年のブレークイーブン・インフレ率2.4%を大きく下回っている。
一方で、株式は史上最高値圏にある。・・・
何か腑に落ちない。

ラジャン教授がProject Syndicateで、債券市場と株式市場が見る未来が異なっていると暗に指摘している。
10年の実質金利ははっきりとしたマイナス圏にある。
これは、10年を通して米経済が低迷することを示唆している。
教授は、1つのシナリオを例示する。

「おそらく、デルタ変異種の感染拡大により先進国で新たなロックダウンが必要となり、新興国市場はもっと大きく影響を受ける。
おそらく、もっとひどい変異種が発生する。
おそらく、議会の交渉が決裂し、インフラ法案さえも通らない。」

ならばどうしてインフレは平均で2%を超え、株式は史上最高値圏にあるのか。

ラジャン教授は、1つの原因として極端な金融緩和が資産運用者を利回り追求に追いやっているためと指摘する。
そして、物価上昇や資産インフレだけでなく、世界が忘れ去ったかに見える財政問題についてユニークな指摘をしている。

現在の超低金利が各国財政の利払い負担を少なくしているのは周知の事実だ。
そして、各国財政当局は、長期の資金繰り・イールドカーブを眺めながら、安定調達のための工夫をしている。
経済が回復し金利が上昇する時に急激に利払いが増えないよう、国債の償還年限を長期化するなどが典型例だ。

ラジャン教授は、元中央銀行家ならではの通でマニアックな落とし穴を指摘している。
それは、量的緩和が「実効性のある年限短期化の主因の1つ」になっているというものだ。

中央銀行が5年の政府債務を毎月の債券買入れプログラムで市場から買い集める時、その購入資金は商業銀行からのオーバーナイトの準備預金により借り入れる。
それには利子を支払う(『超過準備への付利』)。
政府と中央銀行(多くの国で政府の完全子会社)の連結B/Sの観点から、政府は基本的に5年の債務をオーバーナイトの債務とスワップしたことになる。
量的緩和とは、実質的な政府債務年限の継続的短期化と、それに対応する政府・中央銀行(連結で)の金利上昇へのエクスポージャー拡大を推し進めるのである。

ラジャン教授は、弊害を指摘するにとどめている。

こうした量的緩和の出口での困難については、これまでも議論され、一部では解決策も囁かれてきた。
例えば、超過準備の付利の範囲を狭めるなどだ。
ただし、こうした方法は負担を他の経済主体に転嫁するにすぎず、問題の発生場所を変えるだけかもしれない。
(国家の財政危機を金融危機に振り替える等。)
転嫁されていやがる人は資本逃避を試みるだろうから、同時に何らかの資本規制が敷かれるだろう。
つまり、解決策がハッピーエンドを約束するものになるとは限らないということだ。


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