通貨安誘導、近隣窮乏化政策、通貨戦争:ギータ・ゴピナート

IMFチーフエコノミストのギータ・ゴピナート氏らが、金融緩和による通貨安誘導についてのブログ記事を公表している。
とても冴えた文章であり、長めに引用し、少々解説を付そう。


金融政策は国内需要を刺激し、それが今度は諸外国の財の需要を増やすことで諸外国に恩恵をもたらす。
しかし、心配なのは、金融緩和は同時に自国の為替レートを弱くし、輸出の競争力を高め、諸外国からの輸入価格を高めることで輸入の需要を減じてしまうことだ。
支出切替(expenditure switching)と呼ばれる現象だ。

ゴピナート氏らがIMFブログで、金融緩和の国際的波及効果についてコメントしている。
金融緩和は国内経済を改善し、その波及効果で諸外国の経済にも恩恵を与えるとされてきた。
ところが、それがそうでなくなってきている。
自国通貨安により輸入品が高くなり、国内の買い手の支出の対象が輸入品から国産品に切り替わる。
これが「支出切替」であり、これを狙う政策が支出切替政策、その結果が支出切替効果だ。

いくつかの先進国経済で伝統的な金融政策の余地が限られる中、金融緩和のこの通貨チャネルがかなりの注目を集めている。

金融政策のメカニズムとは何だったか。
学校では金利低下による信用創造と教えてきたはずだ。
しかし、先進国においては金利低下がほぼ行き着いている。
みんな心の中ではわかっているはずだ。
これ以上金利を下げたところで実体経済を押し上げるような信用創造が進むものではないと。

それでも先進各国は次の景気後退に備えて金融緩和の準備をしている。
理由は2つある。
1つは金融市場を支えるためだ。
米国のように資産効果の大きな国においては、金融市場を支えることには一応の理屈がある。
しかし、すでに私たちが毎日恐れおののいているように、このロジックはかなり確実にバブルを生む。

もう1つが金融緩和による支出切替だ。
これは日欧が得意とするところだろう。
通貨安誘導は、合意なく為替介入を用いれば、国際社会で厳しく批判される。
しかし、金融緩和を用いれば、大きな批判を浴びることがなかった。

ゴピナート氏らは、こうした行動に疑問を呈する。
金融緩和による支出切替には、貿易収支を継続的に改善するほどの効果はないというのだ。


通貨安による支出切替効果は概して小さい。
12か月以内の期間ではなおさらだ。
(対全通貨で)10%の通貨安は、貿易収支を短期的に平均でGDPの約0.3%改善させる。
その効果のほとんどは輸入の縮小によるものだ。

10%の通貨安とはなかなかのものだ。
ワン・タイムの0.3%とはなかなか小さい。
もちろん長い期間かければ少しは違ってくるのだろうが、それにしても小さい。
1つには、輸出の為替感応度はそれほど高くないということだろう。
自国通貨が少し安くなっても、輸出できる財が急に増えるわけではない。
輸出用の製品や生産ラインを整えるぐらいの需要増と時間が必要になる。
だからこそ支出切替効果の「ほとんどは輸入の縮小」なのだ。
輸出がたいして増えず、輸入が減るということは、値上がりにより輸入品の購入が減ったのだろう。
要は貧しくなったのだ。

いや、しかし支出切替効果でとにかく儲かったはずだ。
実際、円安だと景気がよくなっているのではないか。
誰かが儲かったのだとすれば、それは国内の部門間で所得が移転した可能性が高い。
家計・輸入部門から輸出部門に所得が移転したのだ。

ゴピナート氏らは、効果の薄い支出転換政策がエスカレートし「近隣窮乏化政策の心配や通貨戦争の恐れ」に発展するのを心配している。

貿易黒字国・赤字国の両方は、より強くバランスのとれた世界経済を守る責任を共有することを認識しなければならない。

これはケインズの時代から言われてきたことであり、正論だ。
しかし、実際のところ、この責任に忠実に対処している国などほとんどない。
どの国も輸出を増やすのに熱心だし、輸出増と輸入増をセットにしようなどと考えている節もない。
とにかく、まず輸出・インバウンドありきだ。
世界経済が風邪を引いて、需要が足りなくなってくると、この傾向は増すばかりだろう。
果たして国際社会は通貨戦争を食い止め、無用の追加緩和にストップをかけられるだろうか。


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