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通貨・貨幣システム崩壊の可能性が高まる:レイ・ダリオ
2020年5月9日

ブリッジウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ氏が執筆中の新著『変わりゆく世界秩序』(仮訳)の中からの第2章補記「お金、信用、債務、経済活動の大きなサイクル」を紹介しよう。


通貨の減価と通貨が準備通貨の地位を失うことは必ずしも同じではないが、いずれも同じこと(債務危機)から引き起こされる。
ある通貨が準備通貨の地位を失うのは、慢性的で大きな減価による。

ダリオ氏が自身のSNSで、ある国家の通貨、とりわけ準備通貨が減価する事例について分析している。
同氏によれば、中央銀行がお金と信用の供給を増やす時、お金や信用の価値が減価するという。
今がそれに当てはまるから、ダリオ氏は「現金はゴミだ」と言い続けているのだ。
(もちろん、中長期的にそうなると言いたいのだ。)
もしもそうなら、現金や債権の保有者は損をするし、通貨の発行者や債務者は得をすることになる。

ダリオ氏は、往々にして国々がこの道を選びがちだと書いている。

他の方法に比べて、貨幣増発は最も都合がよく最も理解されず最も一般的な大規模債務リストラ策だ。・・・
ほとんどの人は、自分の資産の価格が上がるか下がるかを心配する。
通貨が上がるか下がるかにはほとんど心配しない。

みんな、お金や信用の名目価格にばかり気を取られ、価格の尺度になっている通貨の価値には目をやらない。
だから、資産の名目価格を押し上げる金融緩和を望む。
同時に、税金を取られるより国が借金を増やすことを好む。
国が借金しても中央銀行が買えば、その時はつじつまが合うからだ。
それは増税を回避し、潜在的なインフレ税の可能性を高めるのだが、そもそも多くの人はそれを理解していない。

多くの先進国でそうであるように、もしも国家が大きな債務を抱えるなら、国家にとって通貨や信用の減価は良いことではないのか、と考える人も多いはずだ。
確かにそのとおりだろうが、それも程度の問題だ。
「慢性的で大きな減価」が準備通貨の地位を奪うのなら、通貨や信用の信認を失うようなところまでやれば、やはり問題が大きい。
準備通貨の地位を失えば、貨幣需要が減り、発行者は貨幣発行益を失うことになる。
もっとも、それ以前に、自国通貨安が止まらない恐怖を味わうことになりかねない。

ダリオ氏は、基軸通貨の変遷についてレビューしている。

  • オランダ・ギルダー
    英国に戦争で負け、フランスの侵攻に見舞われる中で、ギルダーは急速に減価した。
  • 英ポンド
    準備通貨の地位を完全に失うまで2度の減価があり、凋落は徐々に起こった。
    「多くの国が政治的圧力により外貨準備としてポンドを持ち続けたが、彼らの資産は同時期の米資産に比べ著しくアンダーパフォームした。」
  • 米国ドル
    2度の急激な原価(1933年、1971年)と対金でのゆっくりとした減価(2000年以降)があった。

英国の例を見る限り、外貨準備として米国債等を保有することのリスクを感じざるをえない。
1997年の橋本龍太郎首相(当時)の思いはもっともなことだった。
もっとも、日本は米ドルのしぶとさのおかげで今日まで事なきを得ている。)
こうした思いを持つ保有者が増えれば、それが自己実現的に起こらないとも限らない。

ダリオ氏はこの事例研究から、基軸通貨交替のパターンを2つ挙げる。

  • 台頭するライバルに対する経済的・政治的敗北が脆弱性を生んでいる。
  • 莫大な債務が存在し、拡大しており、それを中央銀行がマネタイズしている。

こうした条件が揃うと、通貨安が自己強化的に進み、歯止めが効かなくなるという。
双子の赤字が大きすぎて、削減しきれなくなるのだという。

ダリオ氏は、通貨や信用が減価するのをすべて悪いと考えているわけではない。
良い減価・悪い減価が存在するという。

  • 良い減価: 債務負担軽減により生産性・企業収益・実質株価が改善することがある。
  • 悪い減価: 投資家が現金・信用を売り、インフレに強い資産や外国通貨に逃避してしまう。

悪い減価が起こると、中央銀行は難しい選択を迫られることになるという。

  • 経済への悪影響を覚悟し実質金利上昇を許容するか
  • 金利上昇を防ぐために貨幣を発行し債務を買い入れるか

後者は言うまでもなく従来の延長だ。
問題の解決のために、その問題の原因を強めていくことになる。
日に日に問題の原因は大きくなるし、どこかに限界があるかもしれない。

ダリオ氏は「減価」をうまく使うべきと暗示する。

今が長期債務サイクルの終期だとすれば、通貨・貨幣システムが崩壊する可能性が高まる。
重要なことは、システムに役立つ通貨の減価とシステムを破壊する通貨の減価を区別することだ。


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