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米ドル 転職しないから経済が滞る:アリソン・シュレーガー
2021年7月12日

エコノミストのアリソン・シュレーガー氏が、米労働者のマインドと米経済のダイナミズムに関する興味深いコラムを書いている。


今、私の友人の一人が退職を考えている。
彼は退職すべきだ。
アメリカ人は十分転職しない歴史を持っており、それが経済に悪影響を及ぼしている。

シュレーガー氏がBloombergのコラムで、興味深い主張をしている。
まず1つ目に興味深いのは、アメリカ人の転職が少なすぎると主張していること。
そしてもう1つは、転職の少なさが経済を害すると主張していることだ。
いずれも日本人の抱く米労働者像とは真逆なのではないか。

シュレーガー氏のこの友達はこれまで仕事に不満がなかったのだという。
出張好きで人間関係も良好だった友達にとって現職場は理想的で、多少昇進が遅れたり他社より給料が低くても気にしてこなかったのだという。
ところが、コロナ・ショックが現職場の魅力を奪ってしまった。
出張もなく、リモート・ワークにより職場での会話の機会も減った。
こうなると、歴史的な人手不足の今が転職のチャンスとなるようだ。

アメリカ人の転職が少なくなった理由として雇用主の力が強まったためというものがある。
しかし、シュレーガー氏によれば、それだけでは労働市場全体の転職の減少を説明できないという。
むしろ、報酬全体に占める福利厚生の割合が大きくなったことが効いている可能性があるという。
福利厚生が大きくなったことで、労働者はより引き止められ、それが賃金上昇の重しになるという。

これは日本にある米系金融機関に勤務したことのある人なら、逆を経験していることだ。
日本企業から転職した一般の従業員なら、金銭+自社株による報酬割合の大きさに驚くはずだ。
(逆にいえば、福利厚生はとても簡素なものだ。)
長く在籍することのメリットは比較的少なく、転職によるデメリットは小さく、報酬の比較がシビアに行える。

シュレーガー氏は、アメリカ人に広がる「languishing」(苦悩している)という心理も、転職の減少に関係していると指摘する。
この言葉は「鬱積していないし機能しているが、それでいて盛んでもない」中途半端な心持ちを指す言葉だという。
「languishing」の状態ではリスクテイクや進取の精神が衰えるのだという。

あまり良い比較ではあるまいが、かつて日本で流行った「草食系」という言葉が思い起こされるような現象だ。

低調な転職環境が今変わりつつあるのだという。
パンデミックとリモート・ワークが、人々に転職を考えさせているようだ。
シュレーガー氏はいくつか数字を紹介するが、中でも鮮烈なのがこれだ:

マイクロソフトによる職場のトレンドについての調査によれば、アメリカ人の40%が今年中の退職を検討しているという。

米労働者が強気になっているようだ。
リモート・ワークが、今の仕事のいやなところを気づかせたのだろうか。
労働市場の逼迫が、彼らに勇気を与えているのだろうか。
米国が一足先にトンネルを抜けつつあるとしても、日本人からは理解しにくい積極さではないか。
日本でもワクチン接種が進めば、こうした前向き(?)なチャレンジが増えるのだろうか。

シュレーガー氏は、転職にはいくつも利点があるという:

  • 賃金上昇による格差縮小。
  • イノベーションと能力開発による経済の後押し。
  • 柔軟性のある経済。

シュレーガー氏は、こうした変化のプロセスを受け入れるなら、経済が「よりダイナミックになる」と期待している。
一方、パンデミックという負のショックによるリスク回避が起こる可能性も認めている。
だから、前者となるよう、前向きな転職を奨励しているのだ。

こうした議論を聞くにつけ、変化の起こりにくい日本社会を思い知らされる。
日本でも、パンデミックを機会に前向きに変化に向き合おうという人は多い。
一方、これを機会にリスクテイクをしようという人がどれだけいるだろう。
このあたりのマインドの差が、社会のダイナミズムだけでなく、株式市場でのリスク選好に表れているように思えてならないのだ。


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