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趨勢的スタグフレーションのリスク:ローレンス・サマーズ
2021年12月28日

ローレンス・サマーズ元財務長官は、超過需要がいつまでも続くことは考えにくいとして、米経済が趨勢的スタグフレーションに発展するリスクを警告している。


もしも経済を持続的な形で過熱させられるなら素晴らしいことだ。
しかし、1970年代に辛い教訓として学んだとおり、過熱した経済の結果は、単なるインフレ昂進だけでなく、持続的なインフレ上昇だ。
だから、もう景気後退なくしてインフレを抑制するのが困難な領域に達してしまったのではないかと心配している。

サマーズ氏がBloombergインタビューで、政府・FRBがインフレをソフトランディングさせるタイミングを逸した可能性が高いと指摘している。

米政府が財政出動でお金をばら撒いたことで米経済の需要は大きく拡大した。
パンデミックもあり、すぐには供給側が追い付かない。
結果、インフレが起こったが、FRBは寛大だった。
インフレが5%前後まで上昇しても、寛大であろうとしていた。

FRBより先にバイデン政権はインフレに対する危機感を高めた。
様々な手段で労働者を助け、インフレを鎮静化させようと試みた。
サマーズ氏も、こうした努力について一定の評価をしている。
しかし、この現実主義者は、その努力が結果を出すとは必ずしも期待していない。
むしろ、悪い結果になることを心配している。

「何でもやるべきなのか?
最低賃金を引き上げるべきか? もちろん。
組合の力を強化すべきか? Yesだ。
でも、こうした種類の政策で、労働者の利益になるようなインフレ政策が成功した例はない。
逆に助けようとしたその人たちに跳ね返ってきた例は多い。
1970年代の英労働党から、中南米、1960-70年代の我が国での経験だ。」

ここから、サマーズ氏が極めて中道を行く人物であることがわかる発言が続く。
2年ほど前までは米国におけるハト派、ニューケインジアンの代表的な人物とされていたサマーズ氏だが、その実は極めてバランスのとれた学者なのだ。
民主党の重鎮として概ねバイデン政権を支持しながら、かなりはっきりと注文をつけている。

「供給を重視し、公共投資を通して実行する、進歩的なサプライサイド経済学を示すことを願っている。」

今は需要より供給ということだろう。
各種の給付金よりも効率のよいインフラ投資等に重点をおくべきと話している。

サマーズ氏は「幅広い分野で市場の失敗」が存在し、労働者が割りを食っていることを認めている。
そこで政府が介入するのは当然としつつも、何から何まで政府が産業に介入することには注意を要すると話す。

「例えば、鉄鋼産業での保護主義は潜在的に50千人の雇用を守っているが、これは国内のネイリストの数の1/6にあたる。
しかし、鉄鋼を使う5百万人の労働者を擁する産業の競争力を保護主義がなかった場合より弱めてしまう。」

サマーズ氏は、保護主義的政策により雇用を守ろうとすると、1人の雇用のために全体で1百万ドル(約1.1億円)の費用がかかるとの試算を紹介している。

サマーズ氏はこれまで、低位安定している長期金利についてあまりはっきりした解釈を述べてこなかった。
もっと上昇すると予想してきたことが誤りだったと認め、かなり明確な解釈を与えている。
2段構えの解釈だ。

「1つの理由は、インフレ封じに必要なことが行われ、そのプロセスがかなり収縮的なものになると市場が予想しているためだろう。」

これまで出遅れてきたFRBが今後インフレ退治のために急ブレーキを踏み、それが経済を悪化させるシナリオだ。
将来の経済悪化にともなう金利低下を市場が織り込んでいるとの解釈である。
そして、もう1つの可能性が今後数年における「趨勢的スタグフレーション」のリスクだ。
FRBが急ブレーキを踏み、景気後退に至っても、インフレが沈静化しないシナリオだろう。
「趨勢的」というのは、そこからかなり長い間継続しかねないことを示唆している。

ただし、サマーズ氏は今後を見通すのが極めて難しいことも認めている。
パンデミックとの戦いを第2次大戦になぞらえ、予見の難しさを説明した。

第2次大戦後、経済は趨勢的スタグフレーション、かつての不況に回帰すると予想されていた。
さまざまな理由でそうはならなかった。
今回の話の後に何が起こるかもよくわからない。
何年も超過需要が持続することはありそうにない。


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