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起業を増やすための政策:リチャード・セイラー
2020年2月8日

リチャード・セイラー教授のBloombergインタビュー第3弾: 行動経済学の使い方、経済政策への応用について語っている。


私の著書『ナッジ』にサインしてくれとせがまれたときには・・・私は必ず『良いことのためのナッジを』とサインしている。
同じツールが良いことにも悪いことにも使いうるからだ。

セイラー教授が有名な「ナッジ」の概念について語った。

ナッジとは人間に行動の選択肢を与えつつ、望ましい行動に自発的に誘導する手法のこと。
ナッジの手法を身に着ければ、人々を望ましい行動に向かわせることができる確率が高くなる。
しかも、人々は誘導されたことにも気づかないかもしれない。
とても強力なツールとなりうる。
手法自体が倫理観を備えたものではない。
だからこそ、何が望ましいのか、倫理観を持って正しく使わなければいけない。

セイラー教授は、ナッジが悪用されるのを心配している。
悪しき目的のために使われるナッジを「スラッジ」(汚泥)と呼んでいるのだという。

マクロ経済政策がうまく機能していないように見えるのはなぜかと尋ねられると、セイラー教授は、行動経済学の観点から分析し、1つの解を述べている。

低金利がうまく機能しないのは驚くことではない。
それは事業が機能する方法ではない。
事業を始めるとして、ブルームバーグ氏が何か新しいベンチャーを始めるとして、事業がどうなるかについて推測するはずだ。
借入金利が2-3%であっても、そんなのたいした問題じゃない。

すでに金利は相当に低い。
新たな産業や企業を生み出す上で、もはや金利はたいした変数ではなくなっている。

拡張的政策を推す人の中には、財政や金融緩和が構造問題の解決にまで寄与するとアピールする人もいる。
しかし、新たな強い産業・企業はバラマキや低金利で生まれるものでもないだろう。
もちろん、金利の上下は経済成長に限界的には効いているはずだ。
しかし、それはまさに限界的な効果にすぎないし、そこには逆効果もあることは多くの人が共有するところだ。

セイラー教授が提案する1つの解は生身の人間の心情を捉えたものだ。

もしも起業、新事業の立ち上げを奨励したいとする。
彼らがマイケル・ブルームバーグでなかったなら、ベンチャーが失敗した時どうなってしまうのか心配をする。
彼らの医療保険を確約してあげればいいんだよ。・・・
みんなが医療保険を持っていれば、起業が増えることを保証するよ。

社会保障を整備することが新たな事業を生み出すとは、新自由主義者の主張とは真逆のようにさえ聞こえる。
セイラー教授も、これが直観に反するアイデアであると認めている。
しかし、教授が「保証する」とまで確信している背景にはいくつも証拠があるようだ。

「みんな、社会保障の完備した北欧諸国ではインセンティブが削がれていると考えている。
そうではなく、リスク・テイクを可能にしているんだ。
裕福な家庭の子供が多く起業しているのもこのためだ。
失敗しても街に放り出されることがないからだ。」

セーフティ・ネットが完備すれば人々は怠けるという考え方がある。
セイラー教授は真逆だ。
セーフティ・ネットがあれば、みんな冒険を始めるはずと考え、証拠となる例を挙げたのだ。

個人的に体験した人間の最大の非合理性について尋ねられると、謙虚な言葉を返している。
セイラー教授は、自身を普通の人間だと考えているという。

私たちが心配しなければいけない最大のことは過信だろう。
自信があればあるほど、おそらくそうではないからだ。
私が幸運だったのは、とても猜疑心の強い妻がいて『ほんとなの?』という言葉を口癖にしていることだ。


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