質素ナラティブの功罪:ロバート・シラー

ロバート・シラー教授が、永く存在し続けるナラティブを9つ挙げ、その中から質素を尊ぶナラティブについて言及している。


『質素ナラティブ』は古代まで遡り、自分の富を見せびらかすのは悪いことだとするものだ。
古代ローマ・古代ギリシャ・古代中国には贅沢禁止令があった。
これには長いナラティブの歴史がある。

シラー教授がTown Hall Seattleでの講演で、質素を好むナラティブについて紹介した。
この中で教授は、永く存在し続けるナラティブを9つ列挙している:

  1. パニック vs 自信
  2. 質素 vs 消費の見せびらかし
  3. 金本位制 vs 金銀複本位制
  4. 省力機械が雇用を奪う
  5. 自動化とAIがほとんどの職を奪う
  6. 不動産のブームと崩壊
  7. 株式市場バブル
  8. 不当利得者や悪い企業をボイコット
  9. 賃金-物価スパイラルと悪い労働組合

質素ナラティブは2番目に挙がっており、それとは真逆の消費を見せびらかすのをよしとするナラティブと対をなすという。
この相対するナラティブが時代とともに強弱入れ替わるとし、今はトランプ大統領が見せびらかしナラティブを力づけているという。
教授はかねてから見せびらかしナラティブが米消費を高止まりさせるトランプ効果を指摘している。
日頃はこちらのナラティブが紹介されることが多いのだが、この日、教授は質素ナラティブの方も紹介したのだ。

問題なのは、これらのナラティブが経済イベントと関係していることだ。

見せびらかしナラティブが消費を高めるのなら、質素ナラティブは逆だろう。
シラー教授は大恐慌のさなか1931年に新聞に掲載された「貧しく生きることを恐れるな」と題するコラムを紹介した。


「『・・・今の期間、見えやつまらないことを少し省き、近所に『どうしたの』と言われることではなく自分自身の嗜好にしたがって生きていくことはできないだろうか?・・・』
これが大恐慌の頃の心構えだったんだ。
たくさんの人が、こういうことを何度も聞いたと言っている。
1920年代みんな見せかけの人生を送っていたのだろう。」

なんという既視感だろう。
日本でデフレ・マインドとも称される一連の心のありようと通じるところがある。
日本ではこうしたマインドが回り回って人々を不幸にしているとされている。
それは金銭面を見るかぎり正しいのだろう。
金銭面ではバブルはよい時代だったし、その後の停滞は苦しい時代だ。
しかし、もちろん物差しは1つではない。

シラー教授は狂騒の1920年代とその後の大恐慌の時期を比較する。

みんなよく見せていたんだ。
それが、本当の自分になろうとなった。
ここから思うのは、たぶん大恐慌の頃は1920年代の狂騒の時代よりよい時代だったということだ。
みんな素敵な人たちだったように思う。

もちろん経済がいいことは素晴らしいことだ。
しかし、人間が素敵なのも負けず劣らず素晴らしいことだ。
質素ナラティブとは儒教・仏教の影響(あるいは洗脳)を受けた日本社会になじみやすいところがある。
(もちろん、米国でも清貧の思想のあるキリスト教となじみやすい。)
実際、日本の歴史でも贅沢禁止令に類する法令は何度も試されている。

この日は、見せびらかしナラティブの方にはあまり言及しなかったシラー教授。
自身はトランプ支持者ではないと断った上で、大統領から学んだ点もあると発言した。
その上で、恐ろしいこぼれ話を吐露した。

私はドナルド・トランプ支持者とは出くわしたくないんだ。
CNBCに出演した時は、突然ありとあらゆる種類のヘイト・メールを送り付けられることになったんだ。

この気持ちはよくわかる。
前回の大統領選の前トランプ候補のことを記事にするたびに、たいして批判したわけでもないのに当サイトがDDoS攻撃を受けた。
なんと細かく網羅的に対象を設定したことか。
結果、当サイトはサーバを移転することになった。
パケットは主にロシアのIPアドレスだったが、犯人がロシアとは限らない。
トランプ陣営を応援する誰かがやっていると考えるのが自然だとは思うが。


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