レイ・ダリオ氏が「現金はゴミだ」と言い切ったのは2020年1月のことだった。
そのダリオ氏が先月は「一時的に現金がよい」と言い出した。
もちろんこの間、現金(MMFや短期国債)の利回りは1%未満から5%超に上がっている。
この大きな違いによる変心だが、ダリオ氏はもう少し包括的に理由を説明している。
現金や債券が魅力的か否かを評価する、単純で、精緻ではないがかなり良い方法を共有しよう。
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明記したいのは、この投稿が資産クラスの相対的魅力度を比較するものであり、アルファを得るために投資するものではない点だ。
ダリオ氏が自身のSNSで、資産クラス間の相対的魅力度を比較するフレームワークを解説している。
ヘッジファンドとはいくつかの投資先の魅力度を見て(ロング/ショートなど)ポジションを組み立てる営みだ。
その世界で帝王と呼ばれた人の考えとはどんなものなのか。
ダリオ氏は、現金(や債券)の評価ポイントを4つ挙げている。
- インフレ予想に対する金利水準
- FRBが望むよりインフレや成長率が高いか低いかに基づく金融政策の方向性
- 他の投資先と比べた期待リターンの妙味
- 需給
これを念頭に、ダリオ氏が現金を魅力的と感じるのは次のような場合だという。
- 金利が上昇し、リスクフリー金利がインフレ率より1%を超えて高い時。
- 実質金利が実質成長率以上の時。
この場合、現金を魅力的と考え、逆の場合は借りたいという。
こうした条件を見る限り、実質金利がマイナスだった2020年に「現金はゴミ」と考えたのも理解できる。
その後の名目・実質金利の上昇で、現金は(一時的にせよ)見事によみがえったのだ。
一方、ダリオ氏は長めの債券等については興味を示さない。
「長い債券を見ると、予想インフレ率(現在の推定は約3.5%)より1.5-2.0%上の利回り、あるいは実質成長率予想(約1%のよう)を超える実質金利が欲しい。
このため、これだけの理由から言えば、興味を示すには5.0-5.5%の米国債利回りが必要だ。」
米10年債利回りは近時上昇したとはいえ、4.5%を少し超えた水準。
ダリオ氏の基準には到達していない。
さらに、同氏は利回り以外の要因、需給にも言及している。
米財政赤字による米国債供給増の他、国際情勢に起因する米国離れが心配され、実際には5.0-5.5%を超える水準が求められると予想する。
ダリオ氏は株式に対する評価法についても明かしている。
個々の企業/株式の益回り、配当利回り、利益/成長予想を株価と比較する。
また、個々の需給も見ている。
その後、それをまとめて、見ている市場全体(例えばS&P 500)の見方を得るのだ。
マクロ・ファンドの雄 ブリッジウォーターは、株式についてボトムアップ・アプローチを採用しているようだ。
どの程度精緻にやるかにもよるが、かなり骨の折れる作業のように見える。
今回ダリオ氏は精緻なやり方ではなく、市場全体の数字を用いる簡便法で米国株市場を評価している。
「株式市場の期待リターンは約5.0-5.5%で、これは債券利回りと比べかなり低い(特に、債券利回りは上昇する可能性があり、そうなれば株は下げやすいため)。
これにより、実質的に価格リスクのない現金リターンが、株式市場の予想リターンや予想債券リターンと比べてかなりよく見える。」
ダリオ氏は、現金の予想リターンが高いことの他に、次の下げのための待機資金としても「かなりよい」と書いている。
繰り返すが、こうした計算は精緻ではないため、推計からの乖離はしばしば大きくなる。
このため私は、金利が底を打ち、現金はゴミと言った時のように、予想リターンの差が比較的極端な時に行動するのを好んでいる。
今回のSNS投稿は、事実上ダリオ氏のヘッジ・ポートフォリオの一例を語ったものになっているようだ。