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賃金と無関係なインフレ:アクセル・ウェーバー
2021年2月18日

元ドイツの中央銀行総裁・ECB理事で現UBS会長アクセル・ウェーバー氏が、コロナ・ショックによるインフレ昂進の可能性を指摘し、社会や投資への影響を説明している。


経済モデルがインフレ予想において不正確であることには定評がある。
コロナウィルスはさらに課題を複雑にした。・・・
経済の予想者が過去50年間のデータを用いてモデルを較正したとしても、現在の経済状況はその間に先例がない。
だから、現在低インフレが予想されているからといって、インフレが実際に低いままである保証はない。

ウェーバー氏がProject Syndicateで、長い間鳴りを潜めていたインフレがついに来るかもしれないと述べている。
タカ派エコノミストの心配は、コロナウィルスという全く予想していなかったイベントで顕在化するのかもしれない。

長い間世界の先進国でディスインフレが続いている。
それにはもっともな原因があり、金融・財政刺激策を強化しても実際にインフレはあまり反応しなかった。
インフレが高まらないから刺激策が常態化してきたことは読者もご存じのとおりだ。
この間、ハト派は《インフレは上がらない》、《インフレが上がったとしても良いこと》と言い続け、ただただ拡張的政策を求めてきた。
もちろんこのあたりは程度の問題というのに尽きる。
少なくとも過去を結果論で論じる限り、ハト派の意見は正しかった。

コロナ・ショックが起こると、それがデフレ要因(主に需要減)だけでなくインフレ要因(主に供給制約)になるとの指摘がなされるようになった。
各国、特に米国の政策対応が大戦以来の規模に及んでいるため、さすがにディスインフレがコロナ後も続くと考える人は少なくなっている。
米国ではブレークイーブン・インフレ率に現れる期待インフレ率がすでに2%物価目標を超えている。
今後数か月のうちにベース効果により実績のCPIが2%を超えるのは必至とみられ、その後どうなるかが注目される状況だ。

こうしたインフレの可能性について、ウェーバー氏は需給の関係だけでなく、貨幣要因についても注目している。

2020年の各国財政赤字は間接的に貨幣を発行することで調達された。
しかし、これが成り立つのには、十分な預金者・投資家が、ゼロまたはマイナスの金利で貨幣・国債を保有しようと考えることが条件になる。
もしもこうした投資の健全性が疑問視され、預金者・投資家が他の資産に乗り換えれば、影響を受ける国の通貨は弱まり、消費者物価の上昇につながる。

敵の胸元に剣を突き立てるようなストーリーだ。
貨幣増発の次に漠然とした貨幣数量説を説くのではなく、人々の心理・期待を持ってきたところが周到だ。
この議論は定まった結果を予想するものではないが、最悪の可能性を否定させないという効果を持つ。

過剰な政府債務の先例ではほぼすべての場合、高インフレで終わっている。
信認を失ったことでもたらされるインフレはあっという間に起こる可能性があり、いくつかの例では不完全雇用の時代に賃金-物価スパイラルが先に起こることなく発生している。

心理が引き起こすインフレだから、モノやサービスの需給も関係なく、賃金も関係なく、突然起こりうるのだ。

ウェーバー氏は、インフレの急騰が起これば「破壊的な結果」になりうると主張する。
中央銀行はインフレ退治と金融安定の二者択一を迫られることになる。
ウェーバー氏によれば、歴史を見る限り、ほとんどの場合、安い調達を望む政府のプレッシャーによって中央銀行は金融緩和を続けてきたという。

これが往々にして極めて高いインフレを生み、ほとんどの資産クラスでの実質価値が失われ、政治・社会の動揺をもたらしてきた。

ウェーバー氏は、コモディティ・国際物流・株式・ビットコインなどの最近の価格上昇が、米ドル圏での消費者物価上昇の兆しかもしれないと書いている。
なるほど、米国に関するかぎり、程度はどうあれ、高めのインフレが起こるのかもしれない。
しかし、ウェーバー氏は、これが対岸の火事ではないと釘を刺す。

「インフレ率は国際的に高い相関があり、米ドル圏でのインフレ上昇は世界中での物価上昇を加速させるだろう。」

いや、それでも日本はこれまでもディスインフレだったはず。
今回も太平洋は広く深いのではないか。
日本人ならそうした感覚を持っているはずだ。
ただし、今回についてははっきりとした違いがある。
インフレが日本にも来るかどうかはわからないが、来ても驚かない理由がある。

2014年、アラン・グリーンスパン元FRB議長は、FRBのバランスシートを『火薬の山』と呼び、いつかはインフレは上昇せざるをえないと予言した。
パンデミックはそれに火をつける落雷かもしれない。


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