貿易戦争は漁夫の利を生むだけ:浜田宏一教授

内閣官房参与 浜田宏一 イェール大学教授が、米中貿易摩擦の効果について解説している。
米国に対し逆効果となっている現実を諭す内容だが、それが正しく受け取られる可能性はほとんどないだろう。


1950年、カナダ生まれのプリンストン大学の経済学者ジェイコブ・ヴァイナーは、関税同盟が『貿易創出』効果を生み出すと説明した。
関税障壁を引き下げたり撤廃すれば、加盟国間の財の流れに拍車がかかるというものだ。
しかし、ヴァイナーは同時に『貿易転換』効果にも言及している。
加盟国でない国が加盟国との貿易の減少に直面するというものだ。

浜田教授がProject Syndicateで米中貿易戦争の及ぼす変化について解説している。
保護主義が全体のパイを減らすことはよく知られた話だ。
しかし、もう少し詳細に眺めてみると、損をするもの・得をするものが存在することがわかる。
関税など貿易の障壁を作るもの・作られたものは負け組だ。
しかし、彼らが失ったものすべてが全体のパイから失われるとは限らない。
失われたものの小さからぬ部分は漁夫の利として第三者に回るのかもしれない。

「米中貿易戦争が概してマイナス効果を及ぼしているのに対し、より開かれた貿易を行っているEU・インド・日本・韓国などの経済は結果生じた貿易転換効果の恩恵で拡大するかもしれない。
最近の統計データはすでに転換が起こっていることを示唆している。」


浜田教授は、最近の貿易統計を分析し、貿易転換効果が米中にとってマイナスに働き、それ以外にはプラスに働いていると解説している。
教授は、トランプ政権がこの点を十分に計算して貿易戦争を始めたのか訝しんでいる。

米識者が最近よく口にする笑い話がある。
トランプ大統領は時々正しいことをやるというものだ。
この話は、政権が貿易戦争を仕掛けた頃から、民主党寄りの人たちからも話されるようになった。
《大統領は間違った理由で正しいことをやることがある》というものだ。
その最たるものが貿易戦争だった。
中国の知的財産権への取り組み・過度な国内産業保護は許すべきでない。
伝統的に民主党支持者にはそう考える人が多い。
その人たちが、トランプ大統領が少しずれた理由で始めた米中貿易戦争を支持しているのである。

皮肉にも、日本を含む第三国がこの戦争のおこぼれを漁夫の利として拾っている。
ただし、日本はこの状況を喜んでいられるわけではない。
米国はたとえ対中戦争が解決しなくても、手が空けば対日戦争に注力してくるだろうからだ。
韓国とはすでに手を打ち、インドはまだ小者、EUはうるさい相手となれば、次に勝ち点を取りに来る相手は日本にならざるをえない。
だから日本としては早く米国に愚行を気づいてほしいのだろうが、話はそう単純でない。
何しろ《間違った理由で時々正しいことをやる》人に、なかなか理屈は通りにくいのだ。


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