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貯蓄吸収が政策の重点に:ローレンス・サマーズ
2020年11月23日

ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、財政政策を軸とした拡張的な経済政策への移行が見込まれるとの自説を繰り返している。


「パンデミックがはるかに悪化している時、ワクチンまでどうなるかわからない時、財政刺激策の合意がどうなるか確信を持てる拠り所がない時、どのような方法であれFRBの手足を縛りFRBの危機対応能力を削ぐのは愚の骨頂だ。」

サマーズ氏によるBloombergでのムニューシン財務長菅批判は既報のとおり。
危機の真っただ中にFRBの余力を減らしてしまうのは理に合わないとの主張だ。
ただでさえ政策金利はゼロ、長期金利も依然として低水準にあり、伝統的な金融政策には余力がほとんどない。
サマーズ氏は、今はFRBの緊急融資制度を温存し、今後は金融政策より財政政策を中心とする経済政策に移行すべきとの考えなのだ。

その上で、今後の経済政策に注文をつけている。

これがより一般的に意味するのは、政策策定の重要部分が貯蓄を完全に吸収することを確実にする点になるということだ。
過剰貯蓄が存在し、それを吸収する投資が存在しないと、金利は底につく。
貯蓄は既存の資産を買い入れるのに向い、金融バブルや大きなレバレッジにつながる。
インフレの勢いは失われ、目標に対するインフレ未達となる。
経済不振により何百万人もの労働者が取り残されることになる。

こういう長ゼリフを空でスラスラといい続けられる人はなかなかいない。
論理と網羅性があり、冗長がない。

思えば、サマーズ氏の21世紀の趨勢的停滞論も、ベン・バーナンキ元FRB議長の過剰貯蓄も、モハメド・エラリアン氏のニュー・ノーマルも、同じ現象を異なる面に重点を当てて表現したようなところがあった。
サマーズ氏は実体経済、バーナンキ氏は金融経済、エラリアン氏は投資、といった具合だ。
サマーズ氏は、今後の政策の肝が貯蓄の吸収にあると指摘した。
さすがに信用収縮を選択することはできないから、投資の創出が求められている。
その方向性にとっても、今FRBの能力を削ぐ理由はないとの主張のようだ。

「規律のない中央銀行がインフレを生み出すような状況ではない。
財政赤字が投資をクラウディング・アウトするような状況ではない。
すべての貯蓄は軌道に乗っており、それこそが中央銀行が助けるべきこと、政治家が理解すべきことだ。」

バランス感覚に長けたサマーズ氏だけに、ハト派的な政策にリスクが存在しないなどとは考えていない。
足元では全く心配されないインフレやクラウディング・アウトだが、パンデミックから脱するにしたがい状況が逆転する可能性も当然あると話す。
ただし、2021年末までにそれが起こる確率はかなり低いとも話している。
リスクとリターンを見た上で、今はリスクを覚悟してリターンを取りに行くべきと考えているのだ。

もしも、経済を過熱させすぎて利上げせざるをえなくなって、FRBの重要性が再び増し、もはや(金融政策が)のれんに腕押しでなくなるなら、とても良いことだ。
世界中での幻滅につながったような深刻で長期的な不景気などよりそっちの方がはるかに良い状況だ。

コロナ・ショックに世界が喘ぐ中、この賭けは理に適ったものなのだろう。
米国は再び世界経済の牽引役になる可能性もあり、他国から見ても歓迎すべきことかもしれない。
ただし、落とし穴はどこにでもある。
かつて日本や欧州の一部が落ちた穴だ。
強力な経済政策をいくら打っても、当初の目標に遠く及ばず、経済は自立的に離陸せず、政策のコストだけが積み上がっていく穴。
入れ替わり立ち代わり政治家の顔が変わり、その度に《前回は足りなかった》と話しベットをレイズしていく穴。
以前なら米国に対しては一笑に付したであろうこうしたシナリオが、最近ではあながちテール・リスクとも思えなくなってきている。


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