最近CNBCが作成した米国の家計とインフレについてのビデオが良くできていた。
全編興味深いので読者の視聴に任せたいが、考えさせられる部分をいくつか紹介しよう。
平均的なアメリカ人は家計が安心できる所得水準を年233,000ドルと回答している。
しかし、2021年、米労働者は年平均75,203ドルしか収入を得ていない。
これがビデオの冒頭である。
円安があったとは言え、こんなに差がついてしまったのだ。
145円で換算すると
安心できる所得水準: 233,000ドル=3,378万円
平均年収: 75,203ドル=1,090百万円
日本の労働者給与の統計としては国税庁の「民間給与実態統計調査」がある。
令和3年(2021年)の結果の概要にはこう書かれている:
「給与所得者数は、5,270万人(対前年比0.5%増、25万人の増加)で、その平均給与は443万円(同2.4%増、102千円の増加)となっている。
男女別にみると、給与所得者数は男性3,061万人(同0.5%減、16万人の減少)、女性2,209万人(同1.9%増、41万人の増加)で、平均給与は男性545万円(同2.5%増、131千円の増加)、女性302万円(同3.2%増、94千円の増加)となっている。
正社員(正職員)※、正社員(正職員)以外※の平均給与についてみると、正社員(正職員)※508万円(同2.6%増、127千円の増加)、正社員(正職員)以外※198万円(同12.1%増、214千円の増加)となっている。」
精緻な国際比較は難しいとはいえ、日本の443万円は米国の半分以下に見える。
いかに日本の物価が安いとはいえ、これで豊かとは言えまい。
国内の資源が十分な対価を得ないまま海外に移転していないだろうか。
インバウンド産業については、うまく産業振興をしたと素直に讃えたい。
しかし、一方で、外需産業に共通することとして、仮にいつまでも円安に依存し続けるなら、問題だろう。
国内の資源を安く売りさばくことで継続する事業モデルとの誹りを免れまい。
2年前、米投資銀行の新卒初任給が10万ドル(110円で換算しても1,100万円)を超えたとのニュースがあった。
ボーナスを含まないベース・サラリーの数字であり、ボーナスを足すとさらに大きな額になる。
日本企業の初任給は数十年たいして上昇していない。
昨年の大卒で月額228,500円(12倍すると274百万円)だ。
最近、最低賃金の全国平均が1,000円を超えたとのニュースがあった。
しかし、米国との比較を見る限り、1,000円ではなく2,000円にすべきではないか、との暴論を唱えたくなる。
もちろんそんなことをすれば、事業者の側で理不尽なことが起こってしまうからすべきではない。
煎じ詰めれば、日本が長く続けてきた外需重視の産業政策と通貨安誘導が大きく効いている。
日本の物価・賃金が国際比較で低いのは、安売り政策の必然といえなくもない。
これを見直せば、より穏やかに内外価格差・賃金格差が収縮するのではないか。
CNBCビデオでもう1つ気になったのが、家賃や住宅ローンについての議論だ。
住宅価格の上昇や金利上昇で、住居費の負担が重くなっているようだ。
アメリカ人が年収の3倍もの所得を望むのも、住居費が理由の1つにあるのかもしれない。
その点、日本は住宅価格の上昇が諸外国より緩やかだった。
しかし、近年、日本でも住宅価格は(年収に対して)高騰している。
日銀が金融緩和を続ければ、住宅ローン金利は上がらなくとも、住宅価格は上昇する。
これは言うまでもなく格差を拡大させるだろう。
日本では需要サイドへの対処として昔から金融緩和を推す人が多い。
しかし、本当に良質の需要を押し上げてきたのだろうか。
国民が必要とするタイプの需要を破壊し、安売り向けの需要だけを押し上げていないか、見直しが必要だろう。