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財政政策のプロジェクトを精査すべき:リチャード・クー
2020年1月23日

野村総研のリチャード・クー氏が、財政刺激策の各プロジェクトを精査するための独立した機関の必要性を説いている。


「この状態では、中央銀行がどんなに利下げし準備預金を増やしても何も起こらない。
みんなお金を借りることができないからだ。」

異次元緩和が成長率やインフレ率を高めるのに成功していない理由を問われ、クー氏が在日フランス商工会議所でのインタビューで答えた。
(もっとも、金融緩和は(少なくとも持続的には)経済成長率を高めるものではないだろう。)
クー氏はこの質問に、段階を設けて答えている。
まずは、バブル直後、「バランスシート不況」の段階で、それが冒頭の解答だ。
この段階では、経済主体はバランスシートの修復に集中し、借金を増やすことなど考えないし、できない者も多い。
だから、金融政策の効果は限られてしまう。
この期間、民間が借金してお金を使わない分、政府が借金してお金を使っていたと、クー氏は指摘する。
20年を経て、日本企業のバランスシートは完全に修復されたという。
しかし、経済回復に力強さはない。
今度は「追われる国」の損得勘定が効いてくるからだ。

新興国市場の1つに投資しようと思えば・・・もしもそのリターンが母国への投資より高ければ、資本主義は母国でなく新興国に投資すべきと教えるだろう。

一方、家計は将来への心配もあって、貯蓄をやめることができない。
家計が貯蓄を続けるのに企業が借りなくなれば、貯蓄余剰となるのは当然だ。
これがすべての先進国において大きな課題となっているとクー氏は指摘する。

バランスシート不況下では政府が借金し支出を増やしたのに経済は停滞を抜け出せなかった。
財政刺激策を講じれば当面は効果が出るものの、しばらくすると元に戻ってしまった。

日本の資産価格、商業用不動産価格は87%も下落した。
87%も資産価格が下落すれば、1-2年の手当てでは不十分で、5-10年かかるだろう。
最初からこれがわかっていれば、長期的な将来のためによりよいプロジェクトを選択できていたはずだ。

バブル後の停滞の深刻さを当初理解できず、対策の内容が場当たり的になり、よく精査されていなかったとの指摘である。
クー氏は、リーマン危機直後の米国でも同様の不理解があったと指摘する。
趨勢的停滞には長期的な対応が必要というわけだ。
クー氏は安倍政権が進めようとしている大規模財政刺激策について期待を示しつつ、心配も漏らしている。

まだ日本は良いプロジェクトを選定するための機関を有していない。
これは長期的な営みであり、日本には確実に良いプロジェクトに限定するための独立財政委員会が必要だ。
・・・最近の財政刺激パッケージの一部が・・・心配だ。

どう心配なのかクー氏は明言しなかった。
しかし、その表情からはとても心配している様子が見て取れた。
この様子を見る限り、財政政策とはやはりその内容が重要だということだ。
どんなに多くばらまいても、内容が良くなければ長期的な成長には寄与しない。
政府の金(国民の血税)で名目GDPの数字と与党の票を買うだけになってしまう。

日本において独立財政機関を求める声は少なくない。
財政政策は悪ではない。
無意味・非効率な歳出こそ悪なのだ。
それをマクロかつミクロに監視する機関を求める声があるのは当然のことだろう。
それでもなかなか実現しないのは、やはり誰か力を持つ者にとって不都合なのだろう。

クー氏は、ワイズ・スペンディングになるお金の使い方を尋ねられ、いくつか答えている。
政治に巻き込まれたくないと前置きをしつつ、クー氏は高速道路、空港間交通、英語教育の底上げを挙げた。
(いずれも納得性のある使い道だとは思うが、それでもそこにたかる虫はいるから注意が必要だ。
最近の統合型リゾートでの問題を見ればそれは明らかだろう。)

こうしたことは日本国債の金利より高いリターンを上げるかもしれない。
日銀がこのばかげたことをやる前は、日本国債の利回りは0.7%だった。
例えば日本人の外国語能力改善のためにターゲットを絞った政策を行えば、社会のリターン率は0.7%を超えるかもしれない。
それならやればいいんだ。

ごもっともではあるが、願わくば、リターン率のハードルには適切なリスク・プレミアム分も載せてほしいものだ。


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