議論をしない政治:早川英男氏

日本銀行元理事の早川英男氏が、言論NPO主催の座談会において21日投開票の参議院選挙の争点についてコメントしている。
選挙直前に特定政党の賛美・批判となるのは避けたいが、中から投資にかかわるトピックについての発言を1つ紹介しよう。


ある意味で、ついこの間議論になった『老後2000万円問題』は、本当は非常に重要な議論であって、これこそ私は選挙で、議論してほしかったと思っています。

早川氏が座談会で、老後資金の議論を重要なテーマとして挙げている。
この問題は単に財政問題の要所であるだけでなく、与野党を含めて現在の政治の状況を象徴するような扱われかたをしたためだろう。
アベノミクスは社会保障制度も含めた財政再建について(何もやらなかったとは言わないまでも)やはり痛みをともなう抜本的な対処を避けたと言わざるをえない。
《デフレ脱却の腰を折らないため》という都合のいい理由で、短期的に効くカンフル剤を多用する一方で、可能な限り痛みをともなう改革を避けてきた。

早川氏は「老後2000万円問題」の背景にある年金制度の現状を端的に解説する。

今、年金で起こっていることは、要するにマクロ経済スライドという制度を15年前に入れて、これから少子化が進み、低成長が続くのであれば、給付額を減らしていくことによって年金制度を維持するという仕組みになっているわけです。
ですから、制度は『100年安心』かもしれないけれど、給付額は減っていくわけですから、それぞれの人々は『100歳まで安心』ということにはならない。

2004年の公的年金制度の改正では、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないよう、マクロの給付/負担の状況から給付水準を自動的に調整する仕組み、いわゆる「マクロ経済スライド」が導入された。
賃金や物価が上昇した際には、その上昇率からスライド調整率を差し引いた分、給付水準を増やす。
賃金や物価が下落した際には、その下落率の分給付水準を減らすがスライド調整は行わない(翌年度以降に未調整分をキャリーオーバー)。
つまり、賃金や物価ほどには給付を増えなくすることで、現役世代の負担軽減を進めようとしているのだ。
この調整は「概ね100年後に十分な積立金を保有できると判断される段階」(厚労省)まで続けられるという。


ロジックからわかるように、マクロ経済スライドとは、過去の年金制度が持続不可能であるのを認め、持続可能なように徐々に調整しようという話だ。
年金制度のお金が足りないのを補うことを目的としている。
そして、その解決に魔法などない。
誰かが負担しなければならない。
現役世代の負担を軽減するのが目的だから、それ以外の人が負担すべきだ。
結果、年金受給者の給付を減らし、政府の負担を増やすことになる。

年金制度が大丈夫になるまでマクロ経済スライドをやるというなら、年金制度は大丈夫なのだろう。
問題は、年金受給者(や政府)が大丈夫なのかということだ。
他の条件が変わらないなら、年金制度が「安心」になるほどに、年金受給者の生活は苦しくなることになる。
本当に20百万円は要らないのか。

早川氏は、金額の多寡を別として、やはり年金受給者の老後が「安心」とはいえないと考えているようだ。
国としての対処のあり方を3つ挙げている。

  • 「このままでいい」: 自助により20百万円(?)の貯蓄を促す。
  • 消費増税等: 国民に負担を求める。
  • 高齢者への給付減: 現在の高齢者への社会保障給付を「節約」する。

厳しい現実を正面から見据えた選択肢であり、政治家が忌避するテーマであることが容易にわかる。
右も左もポピュリストだらけの政治が世界的に大流行しており、日本ももちろんその一員だ。

早川氏は嘆く。

結局、今回起こったのは、政府は、そもそも報告書そのものをなかったことにすることによって、議論をしない。
一方で、野党が言っているのは単に『消費税引き上げ反対』だけであって、『2000万円を自分で貯めるのは無理だ』とも言っているわけですから、では、残る選択肢は、現在の高齢世代の給付を減らすしかないのですが、それにすら真面目に答えないわけなので、結局、議論もされずに封印されている。
今の日本の政治が本当に大事な問題をしっかりと、議論しようとしていないということが、非常によく表れた事態だったと思います。

この座談会の圧巻は参加者が与野党の採点をするところだ。
あまりにもフェアな採点がなされており、半ば笑い、半ば泣きたくなった。


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