誰が地銀の収益を奪っているのか:山本謙三氏

元日銀理事の山本謙三氏が日銀「金融システムリポート」の中身を解説している。
そこには地銀だけに責任を押し付けるべきでない実情が垣間見える。


「金融システムは危機的状況には至ってないが、地銀の収益悪化が確実に進んでおり楽観できないという内容だ」

17日公表の日銀「金融システムリポート」の内容を山本氏がBloombergインタビューで解説した。
長く続く金融緩和の中で相対的に運用力に劣る金融機関は厳しい環境に置かれている。
長短金利はゼロかマイナス、イールド・カーブもフラットとなれば、おいしい仕事はそうそうなくなる。
そうなれば、リスクを度外視してリターンを追求しがちなのも人情だ。
なにしろ、マイナスのリターンに甘んじていれば、ただただじり貧になり、破綻さえ起こりうるからだ。

日銀「金融システムリポート」では「ヒートマップにおいて、不動産業向け貸出の対 GDP 比率が『赤』(過熱方向でトレンドからの乖離が大きい状態)に転じた」と指摘している。
これは市中銀行が不動産業向け融資に活路を見出そうとしているのを暗示しているように聞こえる。
日銀の観察はこうだ。

「地域金融機関では、貸出全体に占める不動産業向け貸出の比率が上昇を続けており、また、同比率が 3 割を超える先が少なからずみられるなど、そのばらつきも拡大している。
こうしたもとで、不動産業向け貸出比率を高める金融機関ほど、自己資本比率が低い傾向も窺われる。」

山本氏は収益悪化が地銀にリスク・テイクを強いていると指摘し、理由を2つ挙げた:
・「地方での資金需要の減退」
・「金融政策」
日銀による大規模な国債買い入れが「地銀の伝統的な運用手段を奪」ったとしている。
国債利回りがゼロ近傍・マイナスになれば、そこから国債を買うのは難しい。
だからといって、地方において良質な資金需要が豊富に存在するわけではない。
良質な資金需要がそうないからこそ、これまで国債等を買っていたのだ。

さらに、山本氏は、社会システムのあり方そのものを問い直す指摘をする。


「一国の中で市場経済が占めるウエートが縮小し、民間銀行にとって活動余地が狭められている」

過去の地銀の存在意義の1つは、預金者から預金を集め、一部を国債購入に回すことで、資金を必要とする国家に資金を供給することだったのかもしれない。
それが、分厚い国債市場を形成し、市場原理や実体経済を反映した金利を指し示していた。
しかし、今では日銀が国債の最終保有者のトップであり、そのシェアは4割を超えている。
しかも、イールド・カーブ・コントロールによってお金の価格である金利まで日銀が決めるようになった。
もはや日本の金融市場は市場経済と言うより統制経済に近い。

山本氏は独立行政法人福祉医療機構を例に挙げ、金融政策だけでなく官業のありようにも問題があると指摘する。
同機構は、民間社会福祉事業施設などの整備・充実を目的とした融資制度を用意しており、「介護施設や病院向け設備資金の金利は10年で0.2%から0.3%」なのだという。

「競合先がそんな金利を出してくるので、金利はどんどん下がる。
その中で低収益にあえぐ地銀を責めることができるのか」

なぜここまで低いかと言えば、機構の調達金利が「国債金利に連動しているため」だ。
本来なら潜在成長率を反映して長期金利が決まり、その長期金利に適切なリスク・プレミアムをのせて貸出金利が決まるのが資本主義だろう。
しかし、長期金利が押し下げられ、リスク・プレミアムは圧縮され、長い年月が経っている。

もちろん、盲目的に地銀を保護すべきものではない。
また、すべては良かれと思って行われたことなのだろう。
しかし、それが社会に大きな歪みをもたらしている。
良かれと思って行われたことを単純に是認し続けるなら、ここで生き残れるのは官業だけなのかもしれない。
貸出をできるのは公的機関だけ、株・不動産を買えるのは日銀だけ、なんて世の中になれば、まさに共産主義国家の完成だ。
共産主義には輝かしい未来が待っているだろう。
それは歴史が証明している。

山本氏は地銀の将来についてこう語っている。

「今のような超低金利政策が続けば、地銀の自己資本は着実に低下していくので、どこかで資本注入を迫られる可能性がある」

すばらしい。
ここでも着実に共産主義化が進むようだ。


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