海外経済 国内経済 政治

自由貿易の不都合な大前提:リチャード・クー氏

野村総研のリチャード・クー氏が、目下の2つの懸念材料について解説している。
米金利と貿易戦争の動向である。


イールド・カーブの長短逆転にはさほど心配していない。
しかし、失業率がこれほど低い中で債券利回りが上昇しないことは心配だ。

クー氏がCNBCで、市場を怯えさせている米イールド・カーブの長短逆転についてコメントした。
クー氏の懸念は長短逆転より、景気拡大の中でカーブ全体が上昇しない方にあるようだ。
理由は単純明快。
資金需要が弱いことを示しているためだ。

すべての主要国の民間セクターをグループとしてみると実質的に借金をしていない。
資金フローのデータを見ると、同セクターは実質的に貯蓄している。
この民間セクターのグループがこの低金利で借金をしないのは問題だ。
世界中の民間セクターがやっているように誰かが貯蓄をすれば、他の誰かが借金をして、経済を回していかなければならないからだ。

経済成長が債務拡大に大きく支えられているのは周知の事実だ。
こうした見方は経済学者よりむしろ市場関係者の中で浸透している。
レイ・ダリオ氏は従来から、短期・長期の債務拡大サイクルと生産性上昇が経済成長を生むとの構図を提示している。
もしも、債務拡大が経済成長にとって重要・必須なら、借り手不在は大きな問題だ。
日本のバブル後の10年、20年、30年がまさにそうであり、従来、クー氏はそれに対する処方箋として財政政策を挙げてきた。
国が民間のかわりに借金をして支出をするという考え方だ。

もちろんこうした考え方とは異なる意見もある。
公的債務を拡大すればいつか返済しなければならず、問題の先送りにすぎないとの考え方だ。
ジェフリー・ガンドラック氏は政府債務の拡大に依存する経済の現状を指摘し、景気後退期や財政について懸念をつのらせる。
政府が借金・支出を増やした分さえGDPが増えないのだ。

信用創造が進まない不安を抱える中、貿易戦争が始まった。
クー氏はこの貿易戦争がしばらく続くと予想している。
背景を説明するため、大学で教わる自由貿易論をおさらいした。

「大学では、自由貿易が常に勝ち組と負け組を生み出すと教える。
それでも勝ち組の利益は負け組の損失を常にはるかに上回ると。
だから社会全体では自由貿易が恩恵を持たらすのだ。」

自由貿易は全体のパイを増やす。
だから、社会の中で同時に適切な再配分を実施すれば、みんなが自由貿易の恩恵を受けることができる。
しかし、この理想像にはある前提がある。

「誰も、ある重要な前提を明言しない。
その重要な前提とは、貿易が均衡していることだ。」

クー氏はこの前提が崩れているとし、米国の場合40年近く貿易赤字が続いている現状を指摘した。

2016年の大統領選挙まで負け組が増え続けた。
選挙では負け組の数が多くなり、トランプ大統領を誕生させた。

米貿易赤字による負け組の典型は米製造業の労働者であろう。
自由貿易で被害を受けた人が増え、彼らがトランプ大統領を支持した。
そして今、トランプ大統領が輸出国に難題を突き付けている。

クー氏はこれが世界を変えつつあるという。

これがすべての環境、特に『世界経済を保つために貿易赤字を続けてもいいよ』とする寛容なアメリカ人から恩恵を受けてきた国々の環境を変えた。
そうした世界が変わりつつある。

クー氏の説明には熟考すべき点がある。
貿易収支は損得ではないこと。
モノとカネを等価交換する営みであることだ。
とりわけ、準備通貨国である米国は、タダ同然の紙切れで世界中からモノを買うことができる。
米社会として、貿易不均衡のために損をしていることはなく、やはりかなり得をしているはずだ。
だとすれば、米国が仕掛ける貿易戦争とは、国内の再配分の不備を諸外国に押し付けるような性格があることになる。


-海外経済, 国内経済, 政治
-

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 その他利用規約をご覧ください。