PWCのBernadette Geis氏らが、アメリカ人の老後のための資産形成の厳しい現状について指摘している。
多くの人が準備不足であることを示す兆候が多く存在する。
米成人の1/4が引退後のための貯蓄を持っておらず、引退計画が順調と感じる人はわずか36%だ。
Geis氏らがレポートで、アメリカ人の老後設計の不備について指摘している。
同レポートの中心のテーマは、資金形成を支援する企業群(金融機関、アドバイザーなど)の奮起を促すもの。
競争が激化し収益性が低下しがちな市場だが、顧客の側には潜在的ニーズがあるというわけだ。
業界がよりよいサービスを提供すれば、顧客が貯蓄を増やす機会・手助けになるという。
年齢 | % |
---|---|
18-29歳 | 42 |
30-44 | 26 |
45-59 | 17 |
60+ | 13 |
かつて米国では少なからぬ人たちがアーリーリタイアを目指し、そして実現していたが、近年ますます困難になっているようだ。
自分で稼いだお金でアーリーリタイアするには、就職後速やかにかなりの額の貯蓄をスタートする必要があるが、かなりハードルが高い。
18-29歳で老後資金ゼロの42%は、宝くじ当選に匹敵するような幸運がないかぎり、アーリーリタイアがすでにほぼ不可能になっている。
状況は、アーリーリタイアならぬレイトリタイアでもそう明るくない。
60歳以上で老後資金ゼロと答えた13%には引退は永遠に訪れないし、45-59歳で17%もの人が老後資金ゼロというのも状況の厳しさを示している。
もちろん、老後資金がゼロでなければ問題がないわけでもない。
貯蓄をしている人でさえ、多くが不足しがちだ。
私たちの推計では、引退が近づく人たち(55-64歳)の引退後のための貯蓄額のメジアン120千ドル(約13百万円)では、引退後の15年の期間で月1,000ドル未満しか賄えない。
長寿命化・医療費増大の要因を勘案しなくても、とても十分とは言えない。
年齢 | ドル |
---|---|
55-64 | 120,000 |
45-55 | 82,600 |
35-44 | 37,000 |
35未満 | 12,300 |
レポートの書きぶりから見て、この数字は年金を含んだ広義の老後資金を指しているようだ。
持ち家かどうかでも差は出ようが、メジアンの貯蓄額で老後に突入したら、豊かな老後にはならないだろうし、安心して長生きさえできないだろう。
物価やその上昇率が高い分、米国の方が日本より住みにくいのかもしれない。
機会の格差、富の格差、超低金利はこうした苦難を助長する。
金持ちは、預金・債券の利回りが低くても、他の資産クラスで挽回するだけのストックを持っている。
貧乏人は、一生懸命リスク資産に投資したとしても、元手が小さすぎて挽回しきれない。
かといって、かつてのように預金や高格付債券の利回りで十分必要なキャッシュフローを得られるわけではない。
こうした歪みは長い時間のうちにありどころを変えようとするだろう。
仮に、社会が労働力への分配を増やすようコーポレート・アメリカに命ずるようになれば、米国株市場はこれまでほどのパフォーマンスを上げないようになるかもしれない。
(労働者の得る対価が改善する一方で、老後資金の運用に悪影響が及ぶ可能性がある。)
仮に、アメリカ人が心を入れ替えて、キリギリスからアリに脱皮するようなら、米経済のダイナミズムに大きな変化が起こるかもしれない。