投資

老後破綻のリスク:ジェレミー・シーゲル
2021年3月8日

ウォートンの魔術師ジェレミー・シーゲル教授が、引退後の投資についての興味深いシミュレーション結果を紹介している。


一般的なポートフォリオは株式60:債券40のポートフォリオだ。
しかし、私たちが実際の過去のリターン、クラッシュ、パニック等すべてを使って行った1,000回のシミュレーションにより年4%取り崩しのケースで資金枯渇の確率を計算すると、75:25ポートフォリオの方が60:40ポートフォリオより低くなる。

シーゲル教授がConnors Wealth Managementのウェブキャストで、老後資金について行ったシミュレーションの結果を紹介した。

シミュレーションの前提は以下の通り:

  • 引退後30年。
  • 当初の資金は1百万ドル。株式:債券を一定にする運用。
  • 株式の構成比を0から1まで振ってみる。
  • 毎年5万ドルまたは4万ドル(インフレ調整後)を取り崩す。
  • モンテカルロ法(1,000回)。
  • 株式や債券のリターン、インフレは1926-2019年のデータを元に、メジアンを補正して設定。
  • 実質将来リターンは株式5%、債券0%。
  • 税金・手数料・費用は無視。

グラフから読み取れる資金枯渇の確率は次の通り:

シーゲル教授による引退後シミュレーションによる資金枯渇の確率
出典: ジェレミー・シーゲル教授のスライドより抄出
株式:債券 年5万ドル取り崩し 年4万ドル取り崩し
0:100 91.6% 71.8%
60:40 39.5 19.3
75:25 36.0 18.3
100:0 33.7 21.4

予想はしていたが、とても驚くべきことだ。
通常は、株を多くするほど、市場が悪い時にお金が無くなるのではと思うものだ。
しかし、今日の株式と債券の間のインカム差は大きく、債券に頼ればお金が無くなる確率を上げてしまうんだ。

年5万ドル取り崩しの場合、株式の比率を下げていく(=債券の比率を上げる)にしたがい、資金枯渇の確率は単調減少する。
つまり、債券が多いほど無一文になるリスクは減っていくことになる。
しかし、このシミュレーションで注目すべきなのは、年4万ドル取り崩しの場合だ。
この場合、資金枯渇の確率が最小となるのが75:25のあたりとなり、そこから反転上昇する。
言い換えれば、あまり株式の比率を下げ(=債券の比率を上げる)すぎると、無一文となるリスクが逆に高くなってしまうのだ。

シーゲル教授はコロナ・ショック後、さかんにインフレ・リスクの高まりを警告してきた。
コロナ・ショックに対処するための金融・財政政策が将来のインフレ・リスクを高め、その負担が債券投資家に寄せられると話してきた。
結果、従来の60:40ポートフォリオでは機能せず、75:25とすべきと言ってきた。
今回のウェブキャストでは《債券を減らす方がベター》いうニュアンスを超え、《債券を減らさないことがリスクになる》との含意を伝えている。

この結果は、より株式のウェイトを増やしたポートフォリオの方が60:40ポートフォリオよりも安全な選択肢であることを指している。

この話を日本人はどう受け取るべきであろうか。
まず、シミュレーションの設定であるスタート1百万ドル(1億円超)という設定に戸惑うかもしれない。
日本人も老後資金20百万円ぐらいで大騒ぎするほど貧しい。
1百万ドルは、非現実的な設定ではないか、と思われるかもしれない。
確かに日米では年金制度・医療保険制度等の違いが大きいので、日本人の場合はもう少し甘く見てもいいのかもしれない。
ただし、FPでは以前より「裕福な老後」のためには夫婦で1億円と言ってきており、特に投資家にとって1百万ドルが荒唐無稽とは思えない。

次に、年4-5万ドルの取り崩しというのが大きすぎるのではないかとの思いもあろう。
お金はたくさんあった方がいいのは当たり前だが、確かにこの金額にはまだ節約の余地もありそうだ。
ただし、シミュレーションの結果はそれでも深刻だ。
年5万ドルの場合、最低でも1/3、年4万ドルなら1/5ほどの人が資金枯渇に見舞われる計算になっている。
老後の破綻にこの確率を見込むわけにもいかない。
たとえ1百万ドル持って引退しても、実際にこうしたペースの取り崩しはできないのだろう。

最後に、一般の高齢者にはもっと状況は厳しくなる。
なぜなら、この計算は老後にも株式中心の運用を続けるというシナリオになっている。
プロはさておき、老後には徐々に安定的な資産を増やしていくのが望ましい。
ところが、このシミュレーション結果は、それが逆効果になりかねないことを示唆している。

しかも、日本株は米国株ほど将来リターンを見込むべきでないかもしれない。
債券もダメ、日本株も不十分となった時、現実的な解を見出せる高齢者は極めて少数だろう。
唯一日本が有利なのは、趨勢的停滞がもたらしたディスインフレなのかもしれない。


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