経済学の手法と目的:ロバート・シラー

資産価格の実証的研究で2013年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が、学部生時代を過ごしたミシガン大学での出会いについて語っている。
そこで教授は後の研究に大きな影響を与える手法と目的を心に刻み込まれている。


「大学に進学すると、私は師匠を見つけた。
まず思いつくのはケネス・ボールディングだ。」

シラー教授があるインタビューで影響を受けた学者らの名前を挙げている。
真っ先に挙がったのがケネス・ボールディングだ。
経済学の枠を小さくとらえず、広く社会科学・人文科学にまで業績を残した学者だ。
シラー教授は、ボールディングの特に印象に残っている主張を紹介している。

「ケネス・ボールディングは、倫理に強く基づいた経済学という視点を主張した。
卒業後、ボールディングが米経済学会の会長として講演を行ったことがあった。
確か1969年シカゴだったと記憶しているが、私は自分の先生の講演を聞きにわざわざ行ったんだ。
彼が説いたのは、経済学とは特に私たちに世界を作ることを許し、それは倫理的な目的のもとになされなければいけないと言うことだった。」

自分の(地位・名声の)役に立つ経済学でなく、社会の役に立つ経済学を目指したのはこうしたインプットがあったのだろう。
さらに、カネ儲けのためでなく、社会のためであるという視点は、今だからこそ素直に見倣うべきだろう。

シラー教授は、ノーベル賞の受賞理由について解説している。

「私の貢献は証券危機の数学的モデルで、これは特に受賞直後に強調された。
しかし、今では私の研究にはもう1つ、行動経済学としての観点があると認識されている。」


ともすると間口の狭い議論を行いがちな経済学に、行動経済学は大きなインパクトを与えた。
シラー教授がこの分野に足を踏み入れるきっかけとなったのも、ミシガン大学での学部生時代だったのだという。

「たくさんの教授を尊敬した一方で、批判の感覚のようなものを植えつけてくれた。
・・・
私は学部生の時代、経済学を単なるハードコアな数学モデルとしてではなく、より幅広い視点で見つめなければいけないと信じるようになった。
私の指導教官ジョージ・コタナは心理学を語り、これが経済学に革命を引き起こした。」

コタナはハンガリー生まれの心理学者・経済学者。
後に心理学のマクロ経済への応用を試み、ミシガン大学で教える。
後にミシガン大学消費者信頼感指数となった計測プラットフォームの生みの親だ。
シラー教授は、コタナから人々の心理の重要性を学び、同時に当時の主流の限界を見いだしたのだ。

「私は経済学で進行中だった流れに反する方向に反応したのだと思う。
特に20世紀後半に強かった、抽象数理経済学を追求する流れだ。
それに反対するわけではないが、それに注意を奪われたくはなかった。
こうしたモデルは、人々の合理的振る舞いのモデルであることが多い。
人々が、その目的を表す効用関数を備え、考えを変えることがないとする。
そして、期待効用を最大化しようとする。
それはきちんとした理論だとは思ったが、それにすべて制約されたくはなかった。
経済学者はその価値を過大評価していると思った。」

確かに人間が効用関数を備えていると言われると、滑稽にしか聞こえない。
私たちの日々の判断はもっと気まぐれだ。
確率分布で表そうにも、離散的すぎて、表現できないようなことも多々ある。
だから、心理やナラティブが大切だ。
そして、そのように経済学を強化できたとして、その目的は「倫理」になければならないと願っているのだろう。


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