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米所得税率論争の基本のキ
2021年10月19日

岸田首相の金融課税増税構想はいったんトーンダウンしたが、海の向こうの米国では引き続き注目の的となっている。
そのポイントとはどこにあるのか。


バーリ氏のツイートによれば、最も裕福な1%の人たちの税率は、下位50%が支払う税率の7倍だという。
同氏は、高額所得者こそ減税すべきでないかと問うている。

サイオン・アセット・マネジメントのマイケル・バーリ氏のツイートについてBloombergが伝えた。
同氏によれば「保守派をターゲットにした誤報や迫害が現在社会に浸透している」といい、米左派による金持ち批判はその一端ということのようだ。

バーリ氏が指摘したファクト(?)については首を捻る人もいるのではないか。
高額所得者の方が税率が低いという話は、これまで聞かされてきたのとは少し違う。
このデータはどうやら保守系シンクタンクTax Foundationの分析を引用したもののようだ。

「納税者のトップ1%の個人所得税率の平均は25.4%で、これは納税者の下位50%(3.4%)の7倍超だ。」

JETROによれば、米国の連邦個人所得税の税率(単身の場合の目安)は10%から始まり、最高37%となっている。
累進性のほか控除等さまざまあろうから、25.4%や3.7%という数字はありえない数字ではない。
しかし、もしもこの数字が真実なら、世間で言われている金持ちは税金を払わないという話とはずいぶん違ってくるはずだ。

バーリ氏がこの数字を引用し不満を述べているのは、おそらく先月23日にホワイトハウスが公表した富裕層の個人所得税率についてのレポートを念頭に置いているのだろう。
ホワイトハウスのレポートではこう書かれている。

「私たちは、米国で最も裕福な400家族の連邦個人所得税率の平均を推計した。
推計にあたっては、比較的に包括的な所得の計算を用いており、まだ売却していない株式の所得を含めている。・・・
初期の分析では、2010-18年の間についての個人所得税率の平均は8.2%と推計された。」

ホワイトハウスの推計した税率は先述のシンクタンクのものの1/3未満とされている。
もうお分かりだろうが、ホワイトハウスの推計では、利益の額に未実現の含み益が算入されているのだ。
以前FP記事で紹介したProPublicaでも、同じロジックで税率を計算していた。

投資家なら即座に、この取り扱いが奇妙で無茶なものと考えるはずだ。
そして、米民主党、特に左派への警戒心を強めるに違いない。
しかし、そうでもないらしい。
ホワイトハウスがここを問題視するには相応の理由があるようだ。

「大統領の提案は、低く推計された税率をもたらしている2つの主たる要因を緩和するものだ:
キャピタルゲインと配当所得の優遇税率。
裕福な家族がステップドアップ・ベーシスとして知られる条項を通してキャピタルゲインの所得税を回避できること。」

金融所得の税率(労働の対価への税率との比較)の問題は、社会としての決めの問題だろう。
キャピタルゲインに20%、配当に29%という税率を高いと見るか否か、差があるべきか、は国民が決めればよい。

残る問題は、私たちになじみのない「ステップドアップ・ベーシス」という制度だ。
これは、株式等の相続が発生した際に、相続人の取得費が相続発生時の時価とされるというものだ。
結果、被相続人が死亡時までに積み上げた含み益についての課税を逃れることになる。
だからこそ、ホワイトハウスは税率の推計において含み益を算入していたのである。
(とはいえ、相続と関係ないスコープの話なら、やはり含み益算入は無茶に響く。)

日本の場合、相続税は相続発生時の時価に基づいて計算される。
相続人の取得費は、被相続人の取得費に相続税の按分を加えたものとなる。
つまり、含み益は相続人による売却時に課税されていくのだ。
相続人の将来の税金が相続財産の含み益によって左右されることになる。
相続する側の立場に立てば、不公平と感じられなくもない。

米国が採用するステップドアップ・ベーシスでは、相続した財産の時価に基づいて税額が決まるという意味で、相続する側にとっては公平感がある。
一方、そのために含み益分の税金を取り漏れる難点がある。
含み益を実現するかどうかは資産保有者の裁量によるところが大きいから、この点では大いに不公平だろう。

確かに米国の税制には見直してもいいところがありそうだ。
ただし、それでも配慮や礼儀は大切だろう。
ProPublicaはウォーレン・バフェット氏ら大富豪を並べ、税率が低いと指摘した。
しかし、これらの人物の中には、財産の大半を寄付する人も多く、バフェット氏はその典型例だ。
こうした人の社会への貢献は尊く、「ステップドアップ・ベーシス」など凌駕するものだろうし、富豪の中には増税を支持する人も多い。
バーリ氏の腹立ちを見ても感じられるが、富裕層への増税の話とは、実は礼儀の占める部分が大きいのではないか。


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