野村総研のリチャード・クー氏が、自由貿易の旗手だった米国が保護主義に傾いている原因を説明し、為替市場の改革を求めている。
全世界のエコノミストが米国の保護主義的傾向を批判している。
しかし、エコノミストたちの自由貿易に対する不十分な理解こそが自らこの傾向を生み出したのだ。
クー氏が独Handelsblattで、戦後自由貿易を率いてきた米国の変節を解説している。
自由貿易がポジティブサム・ゲームであり、全体の果実が大きいのは経済学が教えるところだ。
その果実が大きいから、個々の国にとってもポジティブでありうる。
しかし、それにはある前提がある。
「しかし、この結論が成り立つには、その国の貿易収支が均衡か黒字でなければならないことが認識されていなかった。
その国が慢性の貿易赤字を抱えていると、自由貿易は理論が示すよりはるかに多くの敗者を生み出しかねない。」
問題は、貿易赤字の国で自由貿易の果実が個々の国民に十分にいきわたるかだ。
もちろん、自由貿易の下で、安く財・サービスを購入できることはすべての国民にとってメリットだ。
しかし、その一方で雇用が奪われるとなれば話は違ってくる。
それこそがトランプ大統領を生み出し、米国を保護主義に駆り立てていると、クー氏は指摘する。
だから、慢性の貿易赤字を防ぐ必要がある。
本来、それはある変数を通して経済が自律的に調整すべきものだった。
その変数が為替レートである。
クー氏は、利回りを求める世界の投資家が生み出す「ドルの過大評価」が問題の根源にあるという。
国際的な資本移動が自由化された1980年以降、貿易黒字国の通貨を強くし、貿易赤字国の通貨を弱くすることで、貿易収支の均衡をとるという外為市場本来の機能が失われている。
最近の米国の保護主義への宗旨替えは、自由な資本移動が誤った為替レートにより自由貿易を破壊しうることを示している。
つまり、為替レートが貿易収支より金融投資の影響を強く受けているがゆえに、為替レートが貿易収支を均衡させることができないという主張だ。
これは、米ドルなど慢性的な貿易赤字国通貨が過大評価されており、日本円など持続的な貿易黒字国通貨(日本はもはやこのカテゴリーではないかもしれない)が過小評価されているという話になる。
つまり、仮に円が持続的な貿易黒字国だとすれば、もっと円高ドル安でないといけないということだ。
クー氏は近年、東アジア諸国がドル安を誘導する「アジアのプラザ合意」を提唱している。