米ドルが準備通貨でなくなる日:ピーター・シフ

Euro Pacific Capitalのピーター・シフ氏が、米ドルの準備通貨としての特権が失われる時が来ると予想した。
この変化は不可避だとし、そうなれば米国民の生活水準は大きく低下すると話した。


私はロシアが何か具体的な戦争の準備をしているのだとは思わない。
ロシアがやっていること、他の中央銀行が認識していることとは、迫りくるドル危機のために金の準備を増やす必要があるということだ。

ロシアが金準備を増やしていることについて露国営RTから尋ねられ、シフ氏が解説した。
シフ氏にかかると、いかなる変化もすべてが危機、しかも悲惨な危機に関係している話になるから微笑ましい。
そして、それが10年に1度ぐらいあたる。
10年に1度でも大当たりだから無視しきれない。
そのロジックだけでも聞いておけという話になる。
必ずしも厳密とは限らないが、その歴史観には傾聴する価値がある。

「米国が世界を先導して金本位制から離脱して以降、世界はドル本位制になっている。
ドルが金の裏付けを持っている時はいいが、今はドルは何の裏付けもない。
だから、ある通貨が裏付けのない通貨の裏付けしか持たないなら、その通貨も裏付けがないことになる。」

別にドル以外の通貨がドルを裏付けとして発行されているわけではない。
その意味でシフ氏の説明は誤りだ。
しかし、世界の国々が外貨準備の多くをドル資産で保有している点を考えれば、各国が米ドルに大きく依存しているのは間違いない。
そして、シフ氏は正しい説明がそうであることまで知った上でレトリックを使っているのだ。

シフ氏は、これまでは表面化しなかった問題が、ドルの価値への疑問が高まるにつれて表面化するだろうという。

「次の景気後退ではFRBがゼロ金利に戻しQE4を始め、準備通貨としてのドルの役割が疑問視され、各国中央銀行はかわりを探すようになる。
通貨の裏付けとして唯一可能性のある代替物は現実のマネーである金なんだ。」

外貨準備におけるドル資産が嫌われ、金が買われるという予想だ。
しかし、仮にそれが当たるとすると、奇妙な現象が起こるという。

「問題なのは、私たちが発行した、そして今後発行していく通貨に対して十分な金が存在しない点だ。
次の景気後退ではFRBは莫大な財政赤字をマネタイズし始める。」

シフ氏にとっての問題意識は金への強気であろうが、同時にドルへの弱気でもある。
同氏の議論は、米国と距離を置いている国々の外貨準備にも及ぶ。


「米国はドルとその準備通貨の地位を武器として使っている。
諸外国はこれが気に入らない。
だから、ドル離れをすることで一石二鳥を狙っている。
1つのやり方は、金が安い今のうちに金準備を増やすこと。
ドルが本当に下落を始めると、金価格は上昇するだろう。」

確かに、債権国にとって外貨準備の振り分け先は悩みのタネだ。
日中が経常黒字を計上し、米国が経常赤字を計上すれば、それぞれの相手国がどうであろうと、日中の外貨準備はドル資産が増加しやすい。
規模が莫大だから、受け皿としては結局は米国債中心となる。
日中は米国に大金を貸してあげているのに、発言力は米国の方が強い。
仮に米国債や米ドルが大きく下げれば、米中の外貨準備に大きな穴があいてしまう。
これを嫌がる国が増えるのは当然だ。

シフ氏はこの関係性を米中摩擦に応用してこう語る。

「中国が貿易戦争に勝つ1つの方法は、対米輸出を減らし、生産物の国内消費を増やすことだ。
中国は今その方向に向かっているが、人民元高となればドルと米国債が売られ金が買われるだろう。
中国は米国債を金で置き換えることができ、人民元の価値を高め、自国民の購買力を高める。
一方で、同時にドルと米経済に致命的な一撃を与えるだろう。」

自国通貨高を国益と言い切るところがシフ氏らしい。
ここまでうまくいくかどうかは別として、可能性はある。
かなり究極の段階での可能性だろうが、米中摩擦の1つの武器として、中国が米国債売りを検討する可能性はゼロではない。
もっとも、実行した場合は米国を道連れにする自爆テロの色彩も強く、日本も被弾する迷惑な展開となる。

シフ氏は、米ドルの下落を「不可避」な流れと指摘する。

「軍、ミサイル、戦闘機、空母があるじゃないかという人もいるだろう。
問題は、この関係を続けるために米国が本当に世界を脅迫し続けるかだ。
私はそこまで米国が邪悪だとは思わないし、最終的に起こるとも思わない。」

世界中でやりたい放題をやっている米国にもこうした理想を語る人がいるのは救いだろうか。
おそらく多くの外国人はシフ氏と逆の方に賭けているのではないか。
シフ氏は、邪悪でない米国が準備通貨の特権を明け渡す時がやってくると予想している。

数十年にわたって米国は法外な特権を享受してきたが、ひどくこの特権を乱用してきた。
・・・だから、特権は失われると思う。
そして、特権とともに得た米国の人為的に高い生活水準も失われるだろう。


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