異次元緩和が支えている本当のモノ:早川英男氏

日本銀行元理事の早川英男氏による日本経済の生産性低下に関する論考についての続編。
小泉政権以降の経済政策について言及されている。


結論から言えば、民主党政権と安倍政権は憲法や安保政策の違いが注目されがちだが、経済政策に限って言えば大きな違いはないということだ。
民主党政権から第二次安倍政権へと10年近くにわたって敗者を生まないポピュリズム的な経済政策が続いていることが生産性低下のもう一つの原因だと考えられる。
このポピュリズム経済政策は、安倍首相が小泉政権、およびその後継と位置付けられた第一次安倍政権の失敗から、『痛みを避ける』ことの重要性を学んだからではないだろうか。

早川氏が「生産性低下問題を考える(後編)」と題する論文の中で民主党政権・安倍政権の経済政策を評している。
いずれも「ポピュリズム」という意味で変わっていないという見方である。
逆を返せば、もう少し遡って小泉政権では事情は異なっていたのだ。
早川氏は「TFP上昇率が小泉構造改革の後2010年頃に掛けて上昇し」た点を指摘、小泉構造改革が「生産性の向上に寄与した可能性が高い」として、主要な3つのルートを挙げている。

  1. 不良債権の最終処理
  2. 「自民党が長年掲げてきた『国土の均衡ある発展』という理念をぶち壊したことである。
    その象徴は公共事業に大鉈を振るったことだろう。」
  3. 規制緩和

不良債権の最終処理について文句を言う人はもはや皆無に近いはずだ。
問題はあと2つ。
今の時代、小泉改革をポジティブに語るのは勇気のいることだ。
格差問題が重く語られ、小泉改革がその犯人のように言われているからだ。
その指摘には相応の理がある。

だが、論点を生産性に向けると、話は少し違ってくる。
生産性を高めるには労働・資本などの資源を効率的に配分することが必要だ。
それを愚直に実践すれば、弱い地域や規制に守られていたプレーヤーの中には廃れるところが出てくる。
小泉政権は《痛みをともなう改革》を公言し、それを行った。
極めて説得力のある正直なやり方であった。
資源の最適配分を促すことで生産性の向上に寄与したのかもしれない。


早川氏はアベノミクスについて「『痛み』を避けた」と評し、金融・財政政策以外の特徴を4つ挙げている。

  • 「『国土の均衡ある発展』を実質的に復活」
  • 「国民負担の抑制」
  • 「成長戦略等に関する『やってる感』の重視」
  • 「格差批判への対応」

当初、世の多くの人たちのアベノミクスの解釈は、第1(金融政策)・第2の矢(財政政策)で時間を稼いでいる間に、第3の矢(成長戦略・構造改革)で日本経済に本質的な変化を及ぼすというものだったはずだ。
もちろん、安倍政権もそれなりにいろいろやっていたのだろうが、第3の矢は第1の矢と比べるとその取り組み努力にあまりにも大きな差がある。
生産性についていえば、格差是正という名目で悪化を招きかねない施策が打たれている。

前編のメッセージを思い出そう。

  • 安倍政権下では生産性は低下しており、これが賃金上昇の足かせになっている。
  • 女性・高齢者の労働参加により潜在成長率が支えられている。
  • 労働参加の恩恵が終われば、経済成長なき物価上昇が起こりうる。

このメッセージとアベノミクスの上記4点を考えると、将来が明るいとは感じられなくなってくる。
では、金融政策だけなぜ孤軍奮闘となったのか。

早川氏は皮肉交じりにこう分析する。

今では当初の『デフレ脱却』とは違う形で日銀の金融緩和がアベノミクスを支えていることが分かる。
・・・
さらに言えば、これらは日銀が本来目指した2%の物価目標をなかなか達成できずに、金融緩和の長期化を余儀なくされているから可能になっているものだ。
だから、今では政権は2%目標の早期達成などより、金融緩和が何時までも続くことの方を望んでいるのではないか。
幼時教育無償化や携帯通話料金の引き下げなど、物価の押し下げに熱心になっているのがその証拠のように思える。

もちろん早川氏は(地域・職による)格差拡大などを放置してよいと考えているわけではないだろう。
安易な格差の解消が往々にして生産性低下という「コスト」をともなうことを認識すべきと言っているのだ。
生産性上昇のない経済には大きなリスクがあるのに、現状に甘んじれば「危機感なき茹でガエル日本」になると警告しているのである。


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