国内経済

生産性上昇なき賃金・物価上昇のもたらすもの:早川英男氏
2019年6月18日

日本銀行元理事の早川英男氏が、日本経済の長期停滞の真因について仮説を述べている。
敵味方とか、論争とかいった観点ではなく、その問題提起を素直に受け取りたい内容だ。


「アベノミクスの実験6年間がもたらしたもう一つの大きな『発見』は、成長率および生産性に関するものである。
『デフレこそが日本経済長期停滞の原因』としていたリフレ派論者には、大胆な金融緩和でデフレ脱却さえ実現すれば、日本経済には高成長が甦ってくる(そうなれば増税なしで財政再建も実現する)といった楽観的な見方があったが、現実はそうはならなかった。」

早川氏が「生産性低下問題を考える」と題する論文でいわゆる《デフレ犯人説》を否定している。
それは、平均成長率に如実に表れているという:

  • アベノミクス開始以来6年余り:+1.2%
  • 「実感に乏しいと言われた2002-07年に掛けての『いざなみ景気』」:+1.6%

ちなみに「いざなみ景気」の終期の内閣が第1次安倍内閣だ。

デフレが犯人でないなら、日本の停滞の原因は何なのか。
早川氏は生産性の低下に注目する。

成長戦略などが一定の効果を発揮することで生産性は多少高まると期待されていたのだが、実際にはこれが大きく低下してしまっている。
経済全体の生産性(労働と資本の2要素の場合、労働生産性と資本生産性の加重平均)を示す全要素生産性(total factor productivity, TFP)は、内閣府推計でも日銀推計でも10年程前には1.0%程度あったものが、最近は0.1-0.2%まで低下している。

生産性が上昇しないなら賃金も上がりにくいのは想像に難くない。
また、生産性の低下があった中で1%程度の潜在成長率を維持しているのはむしろ健闘しているというべきだろうか。

早川氏は、潜在成長率がこの水準を維持した理由を説明する。

「私たちが潜在成長率は高まらないと考えていた最大の理由は、人口高齢化によって生産年齢人口が減って行くため、労働投入量の減少が避けられないと予測していたからである。
しかし、現実にはアベノミクス期間に入って労働投入量はむしろ増加してきたのだ。
これは、女性と高齢者を中心に労働参加率が上昇を見たためである。」

日本経済の停滞の原因はと問われれば、多くの人が人口オーナスをその1つに挙げるだろう。
ところが、この数年を見る限り、人口動態は好ましい変化を見せたのだ。
1つには安倍政権の構造改革が功を奏したのだろうし、1つには女性や高齢者が働かざるをえない社会になったのだろう。

早川氏はアベノミクス下の経済成長を「『労働動員型』の成長」と呼んでいる。
頭数×効率という算数のうち、頭数の方で成長を遂げたからだ。
しかし、もちろん女性・高齢者の労働動員はいつまでもは続かない。
そうなれば、賃金上昇・物価上昇が起こるのだという。
しかし、それはリフレ派がイメージしたものとは少し異なるものになるのかもしれない。

ルイスの転換点』に達して労働供給の増加が止まれば、まずは既に前年比+2%台で上昇しているパートやアルバイトの賃金上昇率がさらに高まり、やがて正規雇用の賃金にも波及して行くだろう。
そうなればデフレ脱却、ひいては日銀の2%物価目標にも近づいて行く可能性がある。
だが、その前に生産性が上昇していなければ、デフレ脱却によって成長率が高まるのではなく、成長率が一段と低迷する中での賃金・物価の上昇ということになってしまう。

いたずらに危機感を煽りたくはないが、スタグフレーションのことでしょうか?


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