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物価目標を賃金目標に変えろ: 渡辺努教授
2021年12月3日

東京大学の 渡辺努教授が、日本における物価と賃金の悪循環を指摘し、日銀の政策目標を物価から賃金に変更するよう提案している。


原因を理解することが大切だ。
1つはよく言われる労働生産性が上がらないこと。
もう1つは物価だ。

渡辺教授がテレビ東京の番組で、日本の賃金が上がらない原因を2つ挙げた。
岸田内閣が重要課題として挙げる「分配」ついて、その「一丁目一番地」こそ賃金だと教授は話す。
そして、物価と賃金の間に「悪い循環」が起こってしまっているという。

「企業の方は商品の値段を上げられないから賃金を上げる余裕もない。・・・
一方、消費者の方は賃金が上がらないから・・・値上げを受け入れられない。」

渡辺教授は、日米欧で実施した、値上げに対する消費者の行動に関するアンケートの結果を紹介した。
国別の比較では、欧米に比べ、日本は値上げに対する抵抗感が強かったという。
さらに、日本についての分析では、自分の賃金の見通しが悪い人ほど抵抗感が強いという。
この結果から教授は、日本の消費者の「値上げ嫌いの根本的な原因」が自分の賃金の将来に明るい見通しを持てないことと読み取る。
政策を考える上では、賃金の将来に明るい見通しを持てるようにすれば、悪循環が止み、好循環を引き起こすことができるはずという。

現状はCPI上昇率を2%にするのが(日銀の)目標だが、賃金に切り替えたらどうか。
仮に労働生産性上昇率が2%程度だとすると、物価目標2%と合わせて4%ぐらいの賃金上昇率を目標値として日銀が政策運営する、新たなタイプのターゲティング政策を考えるべきではないか。

こうした具体的な提言が出されることは素晴らしいことだと思う。
ただし、こうした提言はもちろんスタートラインにすぎず、今後研ぎ澄ましていく必要がある。

1点目は、この目標が本当に日銀に実行可能なのかという点。
労働生産性にしろ物価にしろ、日銀の金融政策でどれだけ変化を起こすことができるのか。
そもそも異次元緩和を思いだせば、この政策に成果がなかったとは決して言わないが、目標を達したとも言い難い。
物価は金融政策への感度が高いはずだったのにだ。
今では、多くの人が、物価上昇が本当に必要ならば、目標は財政当局が担うべきと心の底で思っているのではないか。
労働生産性についてはなおさら金融政策がどう効果的に作用するのか見えにくい。
組織の目標とは、努力がなるべく直接的に目標達成に寄与するよう設計しなければいけない。

原因を理解することが大切だ。
もう1つの論点は、賃金のみが悪循環の要素ではないだろうということ。
賃金の問題を将来の経済的不安と拡大解釈するなら、年金財政もそこに加えるべきではないか。
物価や賃金が上昇し、経済成長が上向けば、年金など老後の経済問題は自動的に解決するのだろうか。
あえてネガティブなことを言えば、年金にとって継続的な金融緩和は一義的にはマイナスに働きかねない。
とりわけ金融抑圧と言われるようなマイナスの実質金利では、預金・債券へのインフレ税がかかり、安定が望ましい老後資金が危うい橋を渡ることになりかねない。

いったい誰が主役になるべきなのか。
日銀が必要かつ無理のない援護をするのは当然としても、どこまで縛るべきなのか。
ただでさえポピュリストが増殖する風潮の中で、安易に日銀の責任範囲を広げれば、ただただ目先の心地よさのために金融緩和を継続する言い訳に使われかねない。


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