海外経済

物価ではなく雇用:ナラヤナ・コチャラコタ
2020年7月28日

ナラヤナ・コチャラコタ前ミネアポリス連銀総裁が、FRBのフォワード・ガイダンス、具体的には市場の動向を大きく左右する金融緩和の継続期間について注文を付けている。


FRBはおそらく状況に応じたアプローチを採用するだろう。
このアプローチでは、経済が失業率やインフレなどの目標を超えるまで刺激策を維持すると約束する。・・・
次の大きな疑問は、FRBが何を政策目標とすべきかだ。

コチャラコタ氏がBloombergへの寄稿で、FRBのフォワード・ガイダンスのあり方について書いている。

フォワード・ガイダンス、現状の経済環境でいえば金融緩和を継続するとの事実上の約束にはいくつかのポイントがある。
1つは、いつまで金融緩和をするというか。
何より明確な言い方は《20xx年xx月まで》と期日を明言することだ。
しかし、これには難点もある。
日米欧で見られたとおり、約した時期までに十分な経済回復が実現できていないと判断される場合、期日を延長することになる。
これは、場合によっては、フォワード・ガイダンスの効果を削いでしまうかもしれない。

コチャラコタ氏の主張は、ある条件が満たされるまで緩和を続ける、と約すべきというものだ。
この議論が終わったら、次に来るのが、何を目標・終了の条件にすべきかとなる。
これまでは2%(または2%+)物価目標だった。
コチャラコタ氏は、FRBが物価目標を好む理由を2つ推測している:

 a) 低下したインフレ期待の押し上げ
 b) インフレ昂進を招く懸念

このうちb)については説得力に欠けるかもしれない。
b)の懸念が十分に小さいと考えてきたからこそ、これまでの異例に大規模な非伝統的金融政策が採用されてきたはずだからだ。

コチャラコタ氏は、物価目標はあまり効果的でないとし、主たる目標を4%失業率(長期失業率予想、法律上の目標)に変更すべきと主張している。

確かに、経済モデルによれば、消費者が将来のインフレ上昇を予想すると、現在購入を増やすとされている。
しかし、最近の審査された研究では、将来のインフレ上昇のニュースに対し人々は支出を減らすことで対応するかもしれないと示唆されている。
おそらく、賃金がインフレ上昇に追いつかないと心配するのだろう。

これは理由a)の妥当性を疑う指摘であり、まさに私たちが日本で見てきた光景だ。
かつて経済学者は、高インフレ下では人々が支出を前倒しすると仮定していた。
それが経済学者にとっての合理的行動だったのだろう。
ところが、人々はもっと合理的な行動を選択した。
不要の支出を切り詰めたのだ。

もちろん、各国の金融政策には景気刺激効果以外にも政府財政への支援、通貨安誘導といった、表立って口にできない理由があるのだろう。
米国に限っていえば、資産効果の大きさを主張する人も多い。
しかし、金融緩和の本来の目的、景気刺激に関していえば、リフレが大好きな米国においても疑問の声がないわけではない。

FRBの2つの使命とは物価と雇用。
人々に自信を与えるのはいずれなのか、との観点で考えれば、コチャラコタ氏の意見には説得力がある。
しかし、連銀総裁時代にはハト派の代表格として知られた同氏だけに、額面通り受け取るのにもリスクがある。
うがった見方をすれば、例えば、来年以降一時的に物価目標が達成される可能性を見ているのではないか。
一方、雇用の回復には長い時間がかかるだろう。
仮にインフレが3%を目指すような状況になった時、FRBは難しい立場に追い込まれる。
ハト派の代表格の主張する失業率目標にはそういう裏があるようにも感じられる。


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