渡辺努教授:シムズ提案はトリクルアップ

期待を喚起させる方法論

トリクルダウンではなくトリクルアップ、生産者でなく消費者の側からという議論は新鮮味のあるものだろう。
量的緩和の二の舞にならないためのはっきりとした転換であると評価できる。
では、どうやってトリクルダウンを、どうやって国民の期待を喚起するのだろうか。
渡辺教授は面白い提案をしている。


「若い世代の賃金を10%上げることにして、その分は企業ではなく政府が払うことにする。
『その財政負担の半分は将来増税するが、残りの半分はネットで増えていくと思ってほしいので、そう行動してほしい』
と言えれば、消費は増えるのでないか。
将来不安は底流では残るが、それでも賃金上昇への期待は少しでも修正される。」

あえて意地悪を言うなら、インフレ期待が喚起される中で、期待される賃金上昇幅は十分に大きくなるだろうか。
もしもならなければ、実質賃金が増えないとの期待は継続してしまう。
もちろん、渡辺教授はこのことをわかっていて、あえて消費性向の高い「若い世代」に限定したのだろう。
しかし、それでも不安は拭えない。
インフレと実質賃金上昇には相反する部分があるためだ。


理論よりも具体策

それでも、渡辺教授のこの提案はナイス・トライだ。
シムズ教授は、国民の期待を誘導するために「2%インフレ目標の持続的な達成が視野に入るまでは、増税は行わず、財政拡大政策を続けると宣言すること」を提案していたが、これではあまりにも説得力がない。
これでインフレ期待が高まるなら、消費増税の延期でもっとCPIは反応したはずだ。
日本人は(そこそこ幸せだが)元気のない年月を重ねてきたせいか、インフレ期待を持った瞬間に財布の紐を締めかねない。
インフレだから先に使うのがアメリカ人かもしれないが、日本人の場合、逆が起こってもおかしくない。

その点、渡辺教授の提案はより現実に即した新鮮味のある提案だ。
FTPLの是非のカギが期待の醸成の可否である以上、こうした提案を多く俎上に載せてつぶしていく作業が必須となる。
そうした提案が出て来なければ、この策は無しとなる運命だろう。
例えば、ベイシック・インカムなどを絡める案などもありえよう。

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