消費増税と円安・円高の各シナリオ:加藤出氏

東短リサーチの加藤出氏が、消費増税を控え、円安・円高で起こる経済へのインパクトを予想している。
物価上昇・為替変動の消費への影響を冷静に分析すると、条件反射的な思い込みは適切でないようだ。


「『消費者態度指数』(青い線)と『暮らし向き指数』(黄色い線)はここ最近悪化の一途をたどっている。
日銀はインフレ予想が高まれば国民は消費を拡大するはずと考えてきたが、皮肉なことに消費マインドは全く逆の動きを見せている。

加藤氏が日経電子版に書いている。
もちろん、長期的に見て2つの系列がきれいな逆相関を形成しているわけではない。
しかし、順相関ではないし、高々無相関といったところではないか。
少なくとも《インフレになればすべて解決する》ようなものではないのだろう。

いまだに10月の消費増税を取りやめるべきとの議論がメディアで紹介されている。
そこで示されるのが世論調査。
是非が拮抗しているか、反対がわずかに多いかといった具合。
しかし、こうした調査の質問は消費増税の是非にすぎない。
これは

  • 8万円払うのと
  • 10万円払うのの

どちらがいいと聞くのに近い。
フェアな訊き方は

  • 消費増税を行うべきか
  • 消費増税を延期し、その分将来の社会保障制度のリスク増大を許容すべきか

ではないか。
そうすれば少し数字は動くだろう。

そもそも、かなりの数の国民が現状でも増税に賛成していることこそ、日本の特殊な状況を指し示している。
さらに、増税に反対する人の中にも、現時点以降にその決定が持ち越されることには憤慨する人も多いはずだ。

そもそも、物価上昇を希求する日本人がなぜ消費増税を嫌がるのか。
同じグロス価格の上昇なのに、消費増税だけを嫌がっている。
消費増税を嫌がる理由は、税金が民間でなく政府に入るからだろう。
しかし、政府に入った後には社会保障等に充てられるのだから、結局は民間に戻る話だ。
日本人はそう考えられるほどリカーディアンであるはずなのに。

それとも、せっかく払った税金を政府が無駄遣いをすると考えているのだろうか。
それはありそうだ。
ならば解決法は決まっている。
社会保障を削減すればいい。
しかし、(一部保守系政治家を除けば)増税反対の国民がそれを望んでいるようには見えない。

さて、グロス価格の上昇に話を戻すと、リフレ派の考えによれば、支出を拡大させるとされている。
自分のお金の購買力が損なわれないうちに使ってしまえ、というわけだ。
それは、消費増税にも言えることで、増税前の駆け込み需要がそれにあたる。
消費増税の場合、そうそう頻繁にあるわけではないので、駆け込み需要の後の反動が問題になる。


日銀の求めるような基調的な2%物価上昇が実現すれば、構図は少し違ってくる。
駆け込み需要の反動は次の駆け込み需要で相殺される。
それが順繰りに起こる。
しかし、やはり多くは望めない。
物価上昇による消費の増加はしょせん先食いでしかない。

結局のところ、結論は平凡だ。
インフレにはたいして期待できない。
問題はインフレを上回る賃上げがあるかだ。
(もちろん、インフレが賃上げを引き起こすという議論はありうるが、日本ではまだ観察されない。)
(ミクロなベースで)実質賃金が上がれば、人々は先食いではなく従来は消費しなかったものに消費するかもしれない。
しかし、統計不正問題を見る限り、残念ながら、それは起こっていないようだ。
あるいは、効率の悪いことに、高所得層で起こり、中間層以下では逆の現象が起こっているのかもしれない。

加藤氏は、今後の円相場について不吉な予想をしている。

19年秋にかけてもし円安が進んだら、それによる生活コストの上昇が日本国民の消費マインドを萎縮させる可能性がある。
そこに10月の消費税率引き上げが重なると消費はさきに述べた一般的な想定よりも悪くなるリスクがある。

アベノミクス初期の為替インパクトは、80円台から120円台への円安だった。
これは輸出企業の価格競争力が1.5倍に改善するインパクトだ。
工場を海外に移そうとしていた企業が手を止めたのも当然だ。

しかし、これは輸出企業にとっては朗報でも家計を含む輸入サイドにとっては凶報だった。
黒田 日銀総裁は2015年、1ドル125円のところでブレーキを踏むような発言をした。
その後、海の向こうでドル安を望む大統領が誕生したこともあり、さらに円安の限度は狭まったかもしれない。
つまり、円安はあっても125円まで、価格競争力は高々1.14倍程度。
これは、日本企業の海外進出を押しとどめるほどのインパクトではあるまい。
これ以上の円安で賃金を上げる絵は描きにくくなっている。

では、円高ならばどうなのか。
加藤氏は予想する。

逆に円高方向に進んだら、株価の下落による逆資産効果で富裕層の消費は沈滞し得るものの、他方で大多数の消費者は生活コスト低下の恩恵を受ける可能性がある。
このため消費税率引き上げの消費へのインパクトは全体としては軽微に済むシナリオも出てきそうだ。

もちろん輸出企業は面白くないかもしれない。
ただ、アベノミクス後の所得・富の分配の偏りを考えれば、こうした調整があってもいいのかもしれない。
本質的な解決の道は為替でなく構造改革にあることは皆理解しているはずだ。


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