投資

米ドル 本当に「現金はゴミ」なのか?
2020年9月24日

年初にレイ・ダリオ氏が「現金はゴミ」と発言したのはショッキングであり微笑ましかったが、その真意を確認しておくことは重要なことだろう。(浜町SCI)


多くの投資家が今「現金はゴミ」とする考え方に影響を受けている。
この発言でダリオ氏が言及した「現金」とは、狭義の現金の他に比較的短期の預金、MMF、短期債なども含んでいるのだろう。
同氏はこれらを「ゴミ」と呼んだのだ。

その理由は明確なロジックによるものだった。
(ちなみに「現金はゴミ」発言はコロナ・ショック前の発言だ。)
金融政策も財政政策もやり切ってしまうと効果も余地も乏しくなる。
結果、金融・財政政策を協調させようという話になり、これが貨幣の価値を危うくする。
だから「現金はゴミ」となる。

この発言時、ダリオ氏は金ほかのハード・アセットをポートフォリオに組み込むよう奨めていた。
発言の前後、インフレ懸念からハード・アセットや株式を買おうという動きが増えたのも事実なのだろう。
みんなこのナラティブを(ある程度)受け入れているかに見える。
このナラティブが強力なのは、現状が(意図したかどうかはさておき)金融抑圧の状態にある点だ。
広義の現金を保有することでアンダーパフォームするだけなら、現金を選択する人も多いだろう。
しかし、実質金利がマイナスに沈んでいると、広義の現金を保有すれば、じくじくと購買力を失うことになる。
だから、投資家は支出(投資または消費)しなければいけないという切迫した気持ちになってしまう。
そして、現在が消費すべき時でないと思えば、投資に回ることになる。
現在の低金利がすべて金融政策によるものとはいえないが、その要因は否定できない。
金融政策も行き着くと、家計を残酷な状況に追い込むのだ。

なぜ残酷なのか。
それは「現金はゴミ」という主張に首をかしげる人も多いことを考えれば明らかだ。
実際、コロナ・ショック初期の下げ相場では、広義の現金に当たるものが買われたのだから。
株を持っていた人は損をしたのだろうが、現金を持っていた人は難を逃れたのだ。
つまり、「現金はゴミ」でなかったし、低金利に誘われてリスク資産に投資した人は、少なくとも当初の下げでは火傷を負ったのだ。
現金はヘッジだったのだ。

2つの見方の間を埋める非常に単純な理解は、「現金はゴミ」が比較的長期的な話で、《現金はヘッジ》が比較的短期的な話というものだ。
仮にこの整理が正しいなら、投資家は迫りくる弱気相場に備え現金を積み増し、頃合いを見計らってリスク資産にオール・インすれば良いことになる。
これは従来の市場サイクルでもイメージされてきた古典的なマーケット・タイミングの戦略に過ぎない。

ダリオ氏の発言には、こうしたマーケット・タイミングの要素が感じられない。
何か、価値の下落していくドルを建値として、リスク資産が上がり続けるようなイメージの話になっている。
言い換えると、例えば金や株式の名目価格が(日々・月々の細かな変動を除き)上昇トレンドを長く継続すると言わんばかりだ。
もしそうなら、これは相当にエッジの効いた予想のように聞こえる。
今年のブリッジウォーター・アソシエイツの運用成績の不振を聞くにつれ、同社が常ならぬ状況を予想して投資を続けているのではないかと推測したくなるのだ。

ほとんどの先進国で程度の差こそあれ似たような金融・財政政策が採られている。
もはやリスク資産の名目価格が大きく下落するような市場サイクルは消滅したのか。
仮にそうなら、まさに「現金はゴミ」に近い。
(先進国がどこも似たようなことをやっているから、外国通貨に逃げることも難しい。)

冷静になれば、リスク資産の名目価格が下がらないというシナリオはメイン・シナリオとは言えないだろう。
(こうしたシナリオはインフレ昂進がスパイラルに進み続ける時に実現する。)
仮にリスク・シナリオといい切れなくなってきているとしても、せいぜいサブ・シナリオといったところ。
つまり、サイクルがいつか下落局面に入る可能性はかなり高い。
そして、最大の問題は、それが《いつ》やってくるかだ。

FRBは最短でも2022-23年までは現状の金融緩和を続けると示唆している。
株式市場が仮に1年ほど先を読むとすれば、2021-22年にも弱気相場が始まる可能性があることになる。
実際には、FRBはインフレのオーバーシュートを許容すると宣言したし、新たな目安となるであろう雇用の回復には長い時間がかかるかもしれない。
もしそうならば、弱気相場スタートは後倒しになるのだろう。
ただ、FRBのメッセージについては金利と流動性のどちらの金融緩和であるかについて十分注意した方がいいだろう。
現在のナラティブは多分に流動性に基づく強気であるように見える。
FRBは長くゼロ金利を続けるのだろうが、流動性についてはどこかで吸収を始めようとするかもしれない。
このポイントは意外と早くやってくるかもしれない。


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