木内登英氏:ボラティリティと投げ売り

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7月まで日銀審議委員を務めた木内登英氏が、ボラティリティの低い市場の危うさについて書いている。
おそらく金融緩和も一因であろう低ボラティリティが終わる時、金融システムが不安定になりかねないと警告している。


リスクを増幅している可能性があるのが、ボラティリティに目標を設定して投資を行う戦略である『ボラティリティ・ターゲッティング投資戦略』の広がりである。
これは、保有金融資産のボラティリティを一定の範囲に収めることを目指す投資戦略である。

木内氏は週刊東洋経済で、ボラティリティとリスク・テイクについて書いている。
例えばボラティリティと言えば、シカゴ・ボラティリティ指数(VIX)が有名だ。
恐怖指数などとも言われるように、市場の動揺を示すものと捉えられることが多い。

実のところ、ボラティリティという言葉はなかなか理解しにくいところがある。
さまざまな金融関連サイトを見ても、正しく理解しているところは説明をはしょり、誤解しているところは間違いを書いている。
木内氏の説明の仕方も前者に該当する。
木内氏は「ボラティリティ(価格変動率)」と書いているが、これは正確ではない。
正確には《価格変動率の標準偏差》というのが正しい。
あるいは《価格変動率のばらつき》の方がわかりやすいだろう。
価格変動率がその資産の投資リターンであることを考えれば《リターンのばらつき》である。


例えば、近年の米市場のように一本調子の上げ相場の時、リターンのばらつきは比較的小さいので、ボラティリティは小さくなる。
ボラティリティが小さいとは、上げても下げても《一本調子》である場合なのだ。
こうした低ボラティリティの環境をヘッジ・ファンド等の短期投機筋は嫌う。
彼らは値動きがギザギザするところで稼ぐモデルを取っていることが多い。
低ボラティリティだと、単なる指数連動ETFの買い持ちに勝てなくなってしまう。

「ボラティリティ・ターゲッティング投資戦略」に限らず、ボラティリティはポーフォリオを運用する上での重要な指標だ。
金融サイトで投資信託の個別銘柄のページを見たことがある人ならシャープ・レシオという指標が掲載されているのを見たことがある人もいるだろう。
これは、その銘柄の(リスクフリー金利に対する)超過リターンをσリスクで割ったものであり、σリスクに見合うリターンがどれだけ上がっているかを示す指標だ。
このσリスクこそ、その銘柄のボラティリティである。
σリスクに対してなるべく大きな超過リターンを上げようという意思が込められているのである。

ボラティリティが低下するとどうなるか。
シャープ・レシオが向上するため、運用者は下限とする値までシャープ・レシオが下がるまでさらにリスク・テイクをすることができる。
この間、シャープ・レシオが横ばいとなるため、運用者はリスクを多くとっているという感覚を抱きにくくなってしまうかもしれない。
木内氏が指摘しているのはまさにこの状態である。

「ひとたびボラティリティが上昇に転じて上限に達すると、保有するリスク資産を一気に投げ売りすることを強いられる。」


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