木内登英氏:ゴルディロックスの裏で累積する歪み

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7月まで日銀審議委員を務めた木内登英氏が、ゴルディロックス経済と称される経済の現状について懸念を述べている。
この言葉がもたらす安心感が、資産市場の歪みを助長しかねないと警告している。


この言葉は、グローバル金融危機が起きる前に楽観ムードが広がる中で多く使われていた。

木内氏は週刊東洋経済への寄稿で、ゴルディロックス経済に潜む危うさを指摘している。
ゴルディロックスとは、景気が過熱もせず、冷え過ぎもしない状況だ。
景気が中くらいだからインフレも高まらず、金融引き締めもさほど進まない。
金利が低位に保たれるために、資産市場には好都合の環境が続く。

木内氏は、日経テレコンでゴルディロックスを検索し、メディアでの登場回数を調べている。
それによると、前回のピークは2007年8月のパリバ・ショックの直前だという。
言うまでもないが、パリバ・ショックとはサブプライム/リーマン危機が表面化し始めた初期の出来事の一つだ。
そして今、その登場回数が再び上昇しているという。

「前回、ゴルディロックスという言葉の使用数が目立って増え始めたのは06年前半であり、米国で政策金利の引き上げが始められた04年6月から相応に時間が経過した後であった。
今回は、米国で政策金利の引き上げが始められたのは15年12月で、使用数が目立って増加し始めたのは16年下期である。」

前回は利上げ開始から2年ほど経ってからゴルディロックスがやってきたが、今回は1年を要しなかったのだ。
これは、今回こそ真のゴルディロックスがやってきたことを示すのだろうか。
それとも、人々が急いで言い訳を求めた結果なのだろうか。


価格の上昇にはムラがある。
金融緩和で雇用がよくなれば、サービス価格は比較的上がりやすいが、モノの値段はそれほどでもないかもしれない。
一方、投機的な資産の価格はそれらをはるかに上回るスピードで上がっている。
資産価格の上昇はスコープに入れず、市場関係者はゴルディロックスと表現するわけだ。

「安定した経済や金融環境が非常に長く続くという期待の裏側で、実は米国不動産市場、家計債務、各種金融商品に大きな歪みが累積していった。」

これは木内氏によるサブプライム/リーマン危機前のゴルディロックスの総括である。
もちろん状況も程度も違うが、今の状況にも定性的には当てはまると心配することは至極健全なことだろう。

バブルの専門家 ロバート・シラー教授は、米市場のCAPEレシオなどから米株価が極めて高いと結論づけている。
ところが、今回の株高には根拠なき熱狂はなく、むしろ不安が立ち込めていると指摘する。
さらに、その不安こそが市場を押し上げている可能性を提起している。
100年に一度の危機からたった10年だから、熱狂がなくても不思議はない。
もう30年近く不安を引きずっている日本と比べればなんでもない。

問題は、バブルが根拠なき熱狂だけから作られるとは限らないだろうということだ。
熱狂が重要なのではなく、根拠が重要なのだろう。
熱狂とは、根拠を忘れさせる原因にすぎないのだろうから。
そう思えば、将来私たちが現在を振り返って、《ああ、あれがあの時のバブルのナラティブ(物語)の一つだったのだ》と思わないとも限らない。

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