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最も面白いのはブロックチェーン:ジム・ロジャーズ
2020年1月12日

ジム・ロジャーズ氏が「2045年に向けて成長が見込める産業」を尋ねられて真っ先に答えたのは、なんとブロックチェーンだった。


「ブロックチェーン(分散型台帳)は最も面白い分野だ。この技術が大きく世界を変える。
銀行などで多くの人の職を奪う一方、多くの新たな職を生み出すだろう。
ブロックチェーンや人工知能(AI)の正しい知識を持つ者が今後25年で成功できる。
(これまで紙幣や硬貨として存在してきた)お金がすべてコンピューター上の存在になり、好ましくないことではあるが、政府が私たちの消費行動を把握できるようになる。」

ロジャーズ氏が日経QUICKニュース社のインタビューで、今後四半世紀で最も成長が見込める産業としてブロックチェーンを挙げた。

決してロジャーズ氏をディスるつもりはないのだが、この記事を読んだ時ある感慨が心をよぎった。
最近、こんなことを言う要人・識者が増えてきたような気がする。

《ブロックチェーンは重要かつ有望な技術だ。
しかし、暗号資産はそうじゃない。》

どうやら偉い人がこう言うと、《自分は技術を理解し寛容だ》という含みを持たせられると考えているようだ。
しかし、筆者からすれば、こうした偉い人たちのほとんどがブロックチェーンという技術、さらに競合する技術との相違点を十分に理解できているとは到底思えない。
関連領域を専門とする人でなければ十分に理解しきれないだろうし、もしも理解しているなら逆に本業がおろそかになっているはずだ。

筆者は、大学院における実験化学のための制御・分析プログラミング、商業銀行企画部門における主に情報系銀行システムを用いたデータ解析の経験がある。
(情報系でビッグ・データを扱うため、当然、出所である勘定系の知見も必要とされた。)
おそらく世の一般人に比べれば、コンピューター技術や金融システムへの知見が多い方だろう。
ブロックチェーンについても極力正しく理解しようと努めてきた。
それでも、自分がブロックチェーン技術について十分に理解できているとは思わない。

だから、一部識者が《ブロックチェーンはすばらしい》と言う時、なんと軽薄な意見だろうと感じてしまう。
なんでこの技術が世界を変えるのか。
何が他の方式のデジタル通貨と違うのか。
本当にわかっていっているのかと疑いたくなるのだ。

(ここで、1つお断りすると、筆者や浜町SCIは決してブロックチェーンや暗号資産にネガティブなのではない。
適切に利用するなら大いに結構と考えている。)

金融分野における分散台帳というと、化石時代の人間の中には1990年代の勘定系へのクライアント/サーバー・システムの採用を回顧する人もいるはずだ。
(ブロックチェーンとは「分散」の意味合いは少し違う。)
当時(今もそうだと思うが)勘定系システムのデータ(つまり各口座の明細データを含む巨大なデータ)はホスト・コンピューター(当時はメイン・フレームと呼ばれていた)によって一元管理されていた。
ところが、韓国の銀行の中に、そのデータをサーバーで分散管理しようとする動きが出てきた。
分散管理すれば当然、負荷の分散になるとは容易に理解できるが、データのインテグリティはとりずらくなる。
筆者はそういう話を聞いて《へえ、勇気があるな》と思った覚えがある。

抽象レベルにまでかみ砕けば、人間の知能など単純なものだ。
データの持ち方など、つきつめれば統合か分散しかない。
だから、統合が本道だとすれば、必ず分散を叫ぶ人が現れ、それが過大に評価されることもある。
これはプログラム部分についてもいえることだ。
こちらは分散から統合に向かう声が多く、ASP、SaaS、クラウドなど、様々な呼び方で売り込まれてきた。
ITベンダーはそれぞれ異なる概念だというが、せいぜいiPhoneの世代の違い程度の話だ。
時間が経つにつれ性能やコンセプトは拡大しているが、スマホはスマホである。

筆者には、ブロックチェーンが産業として大きなインパクトを及ぼすようになるとは思えない。
クライアント/サーバー・システムがそうであったように、ユーザーやそのITベンダーが、必要に応じて用いるツール・キットの1つとして発達するのだと考えている。

特に、伝統的なデジタル通貨のユーザーは、それが分散台帳であるか中央集権型台帳であるかなど意識したこともないし、分散台帳を望みもしない。
彼らが望むのは、安価、安全、スピーディな決済と価値の保蔵である。
その点で、金額規模は小さいものの、従来の電子マネーはすでに合格点だ。
一方、暗号資産のユーザーもまた、分散台帳であるかなど、ほとんど意識していない。
それどころか、現状のユーザーのほとんどは、自身が保有する暗号資産を決済に用いたことがほとんどないのではないか。
買ったっきり、暗号資産交換業者等に預けっぱなしの人が多いのだと思う。
業者のシステム上にある限り、それは分散台帳が生かされているのではなく、業者の中央集権型台帳に載っているだけの話である。

ブロックチェーンを用いて、実際に通貨として機能するものを生み出す可能性は大いにある。
繰り返しになるが、その必要条件は安価、安全、スピーディだ。
(十分条件は、実際に決済に使われること、その必要条件としてボラティリティが低いこと。)
ユーザーは、それを実現するのが分散台帳だろうが中央集権型台帳だろうが気にしない。
量子コンピューターのようなもので分散しなくても安価、安全、スピーディに処理できるなら、そちらの方がはるかにわかりやすい。

もちろん、ブロックチェーンはデジタル通貨以外への適用の可能性もある。
だから、将来の可能性を否定するつもりは毛頭ない。
しかし、そうした発展は技術主導というよりは、用途主導で進むのだと考えている。
あくまでツール・キットの1つとして品揃えに加わり、適材適所で適用されていくのだろう。
それは大きな産業を形成するというより、既存の産業を広く浅くアップグレードするのだろう。
ブロックチェーン産業が巨大産業になることはなく、むしろニッチ・セグメントにとどまると考えている。

だから、筆者は世の偉い人たちに提案したい。
《ブロックチェーン技術は有望》という枕詞を使うより、こう言った方がかっこいいはずだ。

《ブロックチェーンがどれほどのものかはわからない。
必要に応じて用いられ、活躍するならすばらしい。》

さて、インタビューで、ロジャーズ氏が25年後を見通し語ったことをまとめておこう:

  • アジアが世界の中心になり、先進国は問題を多く抱えるようになる。
    有望なのは朝鮮半島、(問題も多いが)中国、ベトナム。
  • 中ロは距離を縮め、NATOは結束力を失う。
  • インド・中国の環境関連、アジアの観光業、農業。

至極妥当な予想になっている印象だ。
四半世紀先の予想は、ロング・ショットを好むロジャーズ氏にとってはむしろ心地よいホライズンなのではないか。



山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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