池尾和人
 

景色が今とガラッと変わる可能性:池尾和人教授

池尾和人 立正大学教授が、日本銀行の金融政策についてコメントした。
今私たちが見ている風景が2020年代後半には真逆になりかねない可能性について触れている。


空からお札をばらまくヘリコプターマネー政策のようなことをやれば物価は上がるかもしれないが、それが経済厚生を高めることにつながるのか問う必要がある

池尾教授がBloombergのインタビューで、金融政策のそもそもの理念を問い直している。
日銀法第二条(通貨及び金融の調節の理念)では、通貨・金融調整の理念をこう規定している。

「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」

物価の安定は手段であって、目指すのは国民の経済厚生の向上である。
効率のよい金融・財政政策のための連携はすべてが否定されるものでもないだろうが、その連携がヘリコプター・マネーであるならば、もう一度それが経済厚生の向上に資するかを問い直すべきだろう。
幸いヘリコプター・マネーについては、日本でも前向きな人は少ないように見える。

では、経済厚生の向上に資する物価上昇の手段には何が残されているのか。
この問い自体がかなり難しい問いになっている。
政府はスマホ料金の引き下げを求めているように、その矛盾を十二分に承知しているのだ。

池尾教授の考えはかなり悲観的だ。
日銀には有効な物価上昇の手段は残されておらず、あるのは「その場しのぎ」や「やったふり」だけだという。

日銀の金融政策がほぼ伸び切ったとしたら、日銀は何をすべきなのか。
今は追加緩和の側にマージンが乏しく、正常化の側の自由度もない。
それならば、いっそのこと正常化の側に自由度だけは得ておくべきではないか。
すぐに正常化をすべきというわけでもなく、現実にもはや不可能だ。
金融緩和を継続するとしても、日銀は正常化に対する自由度を得ておくべきではないか。
それならば、異次元緩和に対する区切りが必要だ。


池尾教授は、異次元緩和に区切りをつけられるのは安倍首相しかいないと指摘する。

「今の金融政策は安倍政権の総意の下に行われているのは誰が見ても明らかなので、政府が方向転換を促すことが正常化の唯一の道だ・・・
安倍首相自身、いつまでも続けられるものではないと発言している。」

池尾教授の発言は、そろそろ日銀が独立性を取り戻すべきという意味かもしれない。
幸か不幸か、このところ格好の他山の石が現れた。
トランプ大統領とFRB、そしてそれと対立するところからモダン・マネタリー・セオリー(MMT)が唱えられる米国だ。
米国の日本化を見て、いっそう自分たちに対する危機感を深めている日本人も少なくないのではないか。
漠然と、いつか何か良くないことが起こるのではないかと心配することは決しておかしなことではない。

池尾教授は、時とともに心配の方向性が逆転しかねない点を指摘する。

20年代後半以降は財政需要が一層膨張する中、貯蓄率は下がり貯蓄を取り崩して生活費に充てることになる。
そうなると経済的な景色が今とガラッと変わる可能性がある・・・
キャピタルフライト(資本逃避)を招いて通貨価値が急激に下落し、通貨防衛のために利上げせざるを得ない。
そういう局面が20年代後半以降、あり得ないことではない

インフレや円安を求める社会から、それらを恐れる社会への変化が起こりかねないのだ。
こうした予想を述べるのはいやなものだ。
その時が来るまでは平穏が続き、オオカミ少年と嘲られることになる。
しかし《大丈夫、大丈夫》と確たる証拠もなく言うだけの人たちばかりでは、この世の中は危うい。

慶応義塾大学の小林慶一郎教授は長期の金融・財政シミュレーションを行い、興味深い示唆をしている。
日銀が国債をどこまでも買い入れ続けると、財政破綻リスクが高まるほど国債の金利が下がるのだという。
そのシミュレーションによれば、2030年頃、金利はついに急騰するとされている。


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