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明らかな危険とは最後の戦いを戦っていること:ラグラム・ラジャン

IMFチーフエコノミスト、インド中銀総裁を歴任したラグラム・ラジャン シカゴ大学教授が、中央銀行のデフレ/ディスインフレとの戦いが終わるかもしれないと書いている。


2008年世界金融危機後の長い低インフレの時期にFRBはインフレを2%目標にまで引き上げるのがとても困難になり、それが中央銀行の心理に継続的な影響を及ぼしている。
今明らかな危険とは、彼らが最後の戦いを戦っているかもしれないことだ。
さらに、FRBがその罠に陥っていないとしても、各国中央銀行と幅広い政策立案環境における構造変化が過去よりも中央銀行を利上げに消極的にするだろう。

ラジャン教授がProject Syndicateで、FRBが「最後の戦いを戦っているかもしれない」と指摘している。

どうして「最後の戦い」が「明らかな危険」なのか。
戦いが終わればバラ色の未来が待っているのではなかったのか。
そのためのデフレ/ディスインフレとの戦いだったのではなかったのか。
実に、リフレ政策とは、目標を達成した時に最大の危険を迎えるようなところがあるのだ。

ラジャン教授は、まだデフレ/ディスインフレが脅威だった時代に行われた政策フレームワークの変更について言及している。
平均物価目標や包摂的な雇用といった考え方が、金融緩和継続の理由付けとして用意された。
結果的に、間の悪い変更になったと教授は見ている。
変更直後にインフレが急騰したからだ。

裁量の幅が中央銀行を締め付ける

新たなフレームワークは一見FRBの裁量の幅を増やすように見えるが、そうではないらしい。
インドの中央銀行総裁としてポピュリスト政権とやり合った経験を持つラジャン教授は解説する。

明確な物価目標の枠組みの利点の1つは、FRBがインフレ上昇に対して迅速に対応するための政治的防御を得られる点だ。
枠組みが変わってしまうと、もはやそれは存在しない。
結果として、ほぼ間違いなくインフレは長期化する。

中央銀行の独立性の要点の1つは政府の介入を受けず適切にインフレ退治を行えること。
しかし、このフレームワークを入れる前にはインフレがむしろ逆に希求されていた。
インフレ上昇を望んで新たなフレームワークが儲けられ、インフレ昂進後もそれが続いている。
現在のインフレ昂進はこのフレームワークと方向を一にしている。

インフレ退治を行えば、裁量の幅が広く見えるがゆえにFRBはより強い批判を受けることになる。

FRBプットを信じ込む市場

ラジャン教授はもう1つ厄介な問題を挙げる。
市場がFRBの足元を見ている点だ。
FRBプットを信じ続ける市場は、利上げに際しネガティブな反応を示すだろう。
教授は、経済とFRBの評判の両方で利上げが大きなダウンサイド・リスクを孕んでいると指摘する。

先延ばしされてきた財政問題が表面化

危険はそれだけではない。
多くの中央銀行は、その独立性に照らしてタブーとされてきた政府債務の貨幣化に事実上手を染めている。

「今やFRBは政府債務を5.6兆ドル保有し、それと見合う金額を商業銀行からオーバーナイトで調達している。・・・
金利が上昇すれば、FRB自体が高い金利を払い始めなければならず、政府に払う配当を減らし、財政赤字は拡大することになる。
さらに、米債務はGDPの125%程度であり、その多くの部分が短期の期限で、借り換えコストの上昇とともにすぐに利払いが上昇を始める。」

金利低下ではむしろプラス気味に働いてきた構図が、金利上昇では大きな問題になってくる。
もちろん国債を増発してさらにマネタイズすることもできよう。
しかし、多くの投資家・エコノミストが予想するように、そうした自転車操業はいつか有害な通貨安となって跳ね返ってくるだろう。
自国通貨建て国債の価格は下がらないかもしれないが、その代わりに自国通貨の価値が低下するのだろう。

先に動けば通貨高で不利に

最後にラジャン教授は、主要中央銀行間での駆け引きについて解説する。
程度の差こそあれ、先進各国の中央銀行は同様の問題を抱え、利上げへの制約となっている。
しかも、先に動けはさらに困難を増やしかねない。

「一番最初に動いた主要中央銀行は自国の通貨を大きく上昇させ、経済成長を鈍化させてしまうことになる。
これが待ちのもう1つの理由だ。
他の中央銀行が先に動いて、市場や政治の怒りをどう買うか見てみようというわけだ。」

ディスインフレかインフレか

ラジャン教授は、インフレ高止まりが決まった未来だというわけではない。
2つのケースに分けて、判断の是非を占っている。

もしも2008年以降のシナリオが再来したり、中国ほかの新興国市場がディスインフレ効果を世界経済に及ぼすなら、待ちは正しい判断ということになる。
そうならなければ、中央銀行の行動に対する現在の障害は持続的インフレを意味することになり、その制御にはより長い時間を要するだろう。

後者は明らかにハッピーエンドとは捉えられていないニュアンスだ。
もしも先進各国がディスインフレを悪と呼び続けるなら、前者もまたハッピーエンドでなくなる。
かつてリフレ派の皆さんが主張したように、この2つの間にあっさりとソフトランディングする確率はいかばかりだろう。


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