早川英男氏:旬を過ぎた高圧経済論

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元日銀理事の早川英男氏が、日本に残る高圧経済論の持つ危うさを指摘している。
長期金利ターゲットが生産性向上に役立つ省力化投資を刺激する効果は小さいと書いている。


「好景気でも金融緩和を継続することが潜在成長力を高めるという、時に『高圧経済論』と呼ばれる考え方を過度に信用しないほうがいいように思う。」

早川氏は週刊東洋経済への寄稿で書いている。
日銀が頑ななリフレ推進からゆっくりと変化しつつあることを評価しつつ、アクセルの吹かせすぎが経済にマイナスに働くことを心配しているのだ。

あっという間に消えた高圧経済論

思い出せば「高圧経済」という言葉、突然注目されあっという間に忘れ去られた。
昨年10月、イエレンFRB議長がこの言葉に言及して一気に注目を集めた。
金融緩和を長期化させる余地を残したい意図とうかがわれたが、これは過去の約束(フォワード・ガイダンス)を反故にするものとして、ジェフリー・ガンドラック氏らの批判を浴びた。
タカ派や債券投資家からすれば予定外の金融緩和は災難でしかなく、長期化などもっての他だったのだ。
一方で、スタンレー・フィッシャーFRB副議長(当時)はもう少し前向きに高圧経済を捉えていた。
経済指標から考えれば利上げが示唆されるとしながらも、高圧経済が生産性向上につながるのではないかとの可能性も示していた。

ところが、こうした議論はあっという間に収束する。
直後の大統領選挙でトランプ氏が勝利すると経済・市場が大きくリフレに傾くように予想されたからだ。
根拠なき予想ではあったが市場はリフレ・トレードで沸いたし、経済も(持続性こそわからないが)上向くような印象を人々に与えたのは事実だ。
そうした中、高圧経済論はあっという間に忘れられていく。
減税案が可決される見通しとなった今、少なくとも短期的に金融政策による高圧経済を求める理由はなくなった。

長期金利は省力化投資の背中は押さない

日銀はある意味で高圧経済論を先取りしてきたとも言える。
昨年9月の「総括的な検証」で導入されたオーバーシュート型コミットメントがそれだ。
そして、FRB・ECBが金融政策正常化に動く中、日銀だけが高圧経済論を維持し金融政策を据え置いているとも言えなくもない。

過度な金融緩和への批判もかなり出そろってきた。
金融機関の収益悪化による金融仲介機能低下、バブル発生の懸念、政府・産業の改革への意欲低下、先食いの反動などがそうだ。
しかし、早川氏は、それらより先に最大の問題点をまず挙げている。

「第一に、省力化投資の回収期間は通常3-5年程度だから、長期金利を強引に押し下げても、その効果は大きくない。」

省力化投資は(人員削減につながりかねない反面)各国が最重要課題とする生産性向上に寄与する投資である。
日銀が長期金利ターゲットを設定しているのは10年もの国債利回りだ。
しかし、省力化投資の回収期間はもっと短いため、10年金利引き下げで投資を喚起できる効果は小さいと言っているのだ。
早川氏は、現在活発化している省力化投資のドライバーは単純に人手不足だと指摘している。
すでに地を這うような金利をさらにわずかばかり押し下げたから盛り上がっているのではない。
やむにやまれぬニーズがあるからこそ投資がなされているのだ。

(次ページ: お金は結局投機に流れる)

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