米ドル

 

日本人のちょっと偏った為替志向:長井滋人氏

日本銀行で国際局長などを歴任した長井滋人氏が、日本人に特徴的な為替に対するバイアスを解説している。
日頃いかにステレオタイプに為替に反応しているか反省させられるような発見だ。


1986年以降の日本経済の歩みを振り返ると、一貫して為替レートの動きに翻弄されてきた感が強い。

プラザ合意があった1985年の翌年に日銀に入行した長井氏が証券アナリストジャーナルへの寄稿で書いている。
この期間を通して「金融政策の反応関数の最重要パラメータも為替レート」だったと書いている。
円高が起こるたびに政策対応がなされてきたのである。
過去の現実を淡々の述べた上で、長井氏は本質を明かす。

「この事は必ずしも円の動きが日本経済へ与える影響が常にそれだけ重要であったことを意味する訳ではない。
・・・国民全体が円の動きに常に過大なまでの関心を持ち、それが故に政治家も官僚も対応せざるを得なかったということだ。」

長井氏は「こうした国を挙げた為替レートへの関心の高さは他国に類を見ない」と添えている。
こういう話を読んでいると、日本人は自らに催眠術をかけているのではないかとの疑念さえよぎってくる。
実際のところ、円高は多くの局面で都合のいい言い訳に使われている。
アナリスト説明会で経営者が業績不振の理由を円高にする。
自分たちにはどうしようもなかったと責任転嫁する経営者がいる。
政治家は円高をばらまきの言い訳にする。
円高ならば財政支出拡大も通りやすいのだろうか。
そこでばらまいたお金は、おそらく政治家に金や票の形で戻ってくるのだろう。


さて、長井氏は3点、日本人に特徴的な為替の志向を挙げている。

過度の「円安志向」
「国民全員が輸出企業に勤務しているかのように円高を国難と捉える」。
冷静に日本経済の構造変化を見据えれば、捉え方はもう少し変わるはずと説いている。

過度の「短期志向」
FXの話ではない。
「円ベースでの価値保蔵に拘る日本人の盲目的なまでの円信仰」が、例えば、為替ヘッジなしの長期海外投資を阻んでいるという。
長期で見れば円相場が一方向だけに動くとは考えにくいのに、律義に為替ヘッジをつけてリターンを減らしている。
日銀がどんなに金融緩和を強化しても、個人マネーのほとんどは円預金から動かないから、金融政策の効果も上がらない。
円で価値を保蔵しながら、円安を喜ぶのだから不思議な国民だ。

「ドル/円志向」
「輸出などの国際的な競争力を測る尺度としてドル/円の動きに一喜一憂するのはそろそろ止めた方がいい。」
長井氏は、アベノミクス初期の円高是正の際「輸出が驚くほど反応しなかった」点を指摘し、重要なのは円相場ではなくドル相場の側であると示唆する。

世界の貿易財の多くが米ドルベースで粘着的に値決めされている下では、ドルが実質実効ベースで安くなると、多くの国が安く輸入をすることができるため、世界貿易量が伸びる・・・
・・・全体のパイが拡大すれば・・・一定のシェアを持つ日本の輸出も伸びる。

ドル安によって日本の輸出が伸びるというロジックは日本人にとっては新鮮かもしれない。
(もちろん輸入も伸びるのだろう。)
日銀の国際局長を務めた人がこう言っている。
私たち庶民の為替政策に対する見方は果たして正しいのだろうか。


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