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日本はやったが、答は「わからない」:ウォーレン・バフェット

バークシャー・ハザウェイ株主総会でのウォーレン・バフェット氏のインフレについての発言に対するコメントで、ローレンス・サマーズ氏、ピーター・シフ氏が興味深い対比を見せている。
バフェット氏のコメントとともに紹介しよう。


まず、ニューケインジアンから、サマーズ元財務長官:

ウォーレン・バフェットは言った。
『米国ではかなりのインフレが見られつつある。』
『わが社は売価を引き上げている。
他社はわが社に対する価格を引き上げている。
そして、それ(値上げ要請)は受け入れられている。』

バークシャー株主総会でのバフェット氏のインフレへの言及をサマーズ氏がツイッターで引用した。
引用は続く。

『みんなポケットにお金が入っていて、値段が上がっても払うんだ。・・・
ほとんど買物マニアだ。
(経済は)赤く熱している。』

サマーズ氏は、米経済がリーマン危機後の停滞から脱しようとするかに見えた2013年、当時の経済が趨勢的停滞にあるとの主張を行った。
21世紀の趨勢的停滞論の趣旨は、循環的な回復が実現しても油断すべきでないということ。
そのため、経済刺激策(当時はもっぱら金融刺激策)の手を緩めるべきでないと示唆したものだ。
これは、モハメド・エラリアン氏の「ニューノーマル」、ベン・バーナンキ元FRB議長の「貯蓄過剰」などの議論と並び、拡張的経済政策を支持する考えと捉えられてきた。

そのサマーズ氏が、昨年から、刺激策の規模と内容を問題視し始め、多くの人を驚かせている。
もちろん、これはポール・クルーグマン教授など最近まで歩調を合わせてきたハト派の論客からの批判を呼んだ。
ただし、サマーズ氏の主張は決して批判を受けるようなものではない。
同氏が予想するインフレ昂進の確率は1/3.
同氏は、ワースト・シナリオからハッピー・エンドまで、確率的思考で将来を見据えているのだ。
これが、ハッピー・エンド100%を主張する他のハト派との違いになっている。

つまり、サマーズ氏はニューケインジアンだが、刺激策の副作用を心配する人物だ。
一方、ピーター・シフ氏は小さな政府を望むリバタリアンである。
リバタリアンは、バフェット氏の言葉をどう聞いたのか。

『かなりの』インフレと言った点でバフェットは正しい。
しかし、それを『赤く熱した』経済のせいにしたのは間違っている。
赤く熱しているのはインフレであって、経済ではない。
赤く熱した経済は物価を下げる。
財政赤字と貨幣増発により氷のように冷えた経済が物価を上昇させる。

この議論に強い違和感を感じる人は少なくないだろう。
過熱した経済が物価を上昇させるというのはコンセンサスだろうからだ。
シフ氏は決して無知な人間ではない。
そのシフ氏が、なぜこうも奇妙な議論をし出すのか。

これは、リバタリアンのご近所に住んでいるサプライサイド経済学的な考えのためであろう。
(サプライサイダー自身は、こんなに奇妙な人たちではない。)
シフ氏のツイートの「経済」を「供給側」と読み替えると意味がわからなくもない。
それ以外、この発言を理解するのは難しいように思える。

さて、バフェット氏、マンガー氏は、インフレや政府債務についてどう考えているのだろうか。
実は、バークシャー株主総会では、サマーズ氏の主張についてどう考えるか質問が寄せられていた。

ラリーはとてもとても賢い人物で、可能性を列挙している。

バフェット氏はサマーズ氏を度々称賛している。
今回の株主総会では、サマーズ氏の2人のおじがノーベル賞学者であることまで紹介している。
サマーズ氏に敬意を払った上で、政府債務の急拡大がインフレを引き起こすかについて話し出した。

経済学だけではわからない。
借金をどんどん作って、利払いコストをとても低くできるのか。
みんな、日本がやってきたことをやれないと考えていたが、日本はやった。
かつてソロモンあたりではウィドウメーカーと呼ばれる日本国債をショートするトレードが流行った。
でも、答は『わからない』だ。

「わからない」という答は投資家としても経済人としても正しい答だろう。
だからこそ私たちには確率思考が求められる。
山が外れたら終わり、では済まされないためだ。

昨年の株主総会でバフェット氏は、債務増大が「通貨への疑念」を引き起こしうると述べていた。
これも可能性の話であって、ある意味「わからない」を言い換えたものだろう。
つまり、バフェット氏の姿勢は一貫している。

今回の総会では、何度か日本に関するトピックに触れられている。
米国が債務問題、その経済への波及効果において日本に近づいたとの思いの表れだろうか。

いずれにせよ、バフェット氏は両論が存在することの重要性を説いている。

「ラリーの考えは、おそらく反対意見と同様に重要だ。
現在の政策によって何が起こるかはわからない。
私たちがわかっているのは、ジェローム・パウエルFRB議長が先日言ったとおり、(パンデミック前の)対GDP比100%が債務水準としてひどく危険な水準ということだ。」

では、債務問題やインフレ懸念はバークシャーの経営、投資の先行きの中でどう消化されていくべきなのか。

最良の道は、自分がわからないことを認識し、何が起こってもそこそこの結果が得られるような方法を採ることだ。
バークシャー・ハザウェイではそう努めている。
マクロ経済予想によって私たちが利益を生み出せるとは考えていない。

バフェット氏が以前から繰り返してきた《無知の知》の奨めであり、銘柄選別の重要性である。

チャーリー・マンガー氏も、この件について同様の見解だ。

ラリーが正しいかどうかは全くわからない。・・・
彼は賢い男で、こうした問題提起には勇気が要る。
こういう意見を言うのはほとんど彼しかいないし、称賛している。

レイ・ダリオ氏やジェレミー・シーゲル教授など、マクロ分野の有名人の中にはインフレを予想する人も少なくない。
しかし、それでも軽々に1つのシナリオに賭けるべきではないのだろう。
その点で、サマーズ氏がシナリオを3つ用意し(目の子であれ)確率を付したのには相応の意味があるはずだ。


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