岩田一政

 

日本の低い中立金利が示すもの:岩田一政氏

元日本銀行副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏が、日本の中立金利の低下について警鐘を鳴らしている。
中立金利の低下は金融緩和を無力化するほか、本質的な生活水準の低下を示唆するものだからだ。


「もう一つは欧州中央銀行を見習い、『税としてのマイナス金利政策』を『補助金としてのマイナス金利政策』に改変することだ。」

岩田氏が日本経済新聞で、日本銀行の金融緩和に残された手段を指摘している。
日銀からの資金供与へのマイナス金利適用については、元日銀理事 早川英男氏も以前から可能性を指摘していた。
市中銀行など資金の出し手に対する事実上の補助金となるこうした手法まで下馬評に挙がる背景には、追い込まれた日銀の状況がある。
岩田氏は日米の中立金利についてこう推計している。

日米の中立金利(自然利子率):

名目 実質
米国 2.5% 0.5%
日本 -0.3% -0.5%

伝統的な金融政策では、主に短期の政策金利で金融調節を行ってきた。
政策金利を中立金利より低位におけば、金融は緩和的となる。
上表のように、日本の中立金利が名目で水面下にあるならば、短期の政策金利だけにスコープを限定した場合、ゼロ金利政策でも金融は引き締め的ということになる。
現状の短期の政策金利(日銀超過準備の付利)-0.1%でも引き締め的なのだ。
(もちろんスコープを短期政策金利以外まで広げれば、緩和的要素も多くある。)
日銀の伝統的ツールはもはやプラス効果を生みがたくなっている。

この窮状を切り抜けるにはどうしたらいいか、岩田氏は3つ挙げている。


  • リフレ
    中央銀行が抱えるゼロ金利制約とは、名目の政策金利をゼロより引き下げることが難しいことだ。
    上表の日米を比較すると、実質の中立金利差が1.0%であるにもかかわらず、名目では2.2%もあることがわかる。
    これは、米国にはまだ一定の利下げ余地があることを反映しており、なぜかと言えば、インフレ率が高いためだ。
    リフレ政策によりインフレ率を引き上げれば、金融緩和に余地が生まれることになる。
  • マイナス金利での資金供給
    市中銀行や市場に対してマイナス金利での資金供給を行えば、問題となっている市中銀行(金融緩和の実際の担い手)の損益悪化を緩和し、金融仲介機能を後押しできる。
    日銀が事実上の補助金を出すことへの反対意見もありうるが、ECBで実績がある。
    岩田氏はこうした施策をマイナス金利政策の「『税から補助金』への転換」と位置付けている。
  • 投資拡大による中立金利引き上げ
    言うまでもなく、これが抜本的な解決策であり、中央銀行の範疇の話ではない。
    岩田氏は、財政政策も選択肢としながら、理想的には企業の投資を拡大し「民間の貯蓄超過傾向を是正」すべきと書いている。

なぜ3番目が最も望ましいのか。
それは、中立金利の低下が金融政策のやりやすさだけの問題ではないからだ。
これが、経済の将来を暗示している点を岩田氏は指摘している。

もう一つの不幸な帰結は、実質中立金利がマイナスの領域に落ちたことだ。
これは先行き1人当たり実質消費の伸び率がマイナスになり、日本人の生活水準が低下することを示唆している。

この指摘に違和感を感じる人は、こうイメージするとよい。
実質中立金利は潜在成長率を反映したものと考えればよい。
潜在成長率とは、経済のもつ成長の実力のようなもので、長期的な実質経済成長率をイメージすればよい。
実質経済成長率とは、名目経済成長率からインフレの要因を取り除いたもの、つまり、数量ベースの成長率だ。
実質中立金利がマイナスとなることは、数量ベースの成長がマイナスになることを暗示する。
つまり、生活水準が下がってしまうわけだ。


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