日本でインフレが進まないわけ:日銀

日本銀行が7日「近年のインフレ動学を巡る論点:日本の経験」と題する論文を公表している。
日本でインフレが進みにくいのはなぜかとの議論における論点を整理したものだ。


全49ページで本文は37ページまで。
残りの12ページは参考文献だ。
この参考文献の多さを見ても、今回の論点整理が広角な視点から丁寧になされたことが想像できるだろう。
本論文はこう結論している。

そこで改めて明らかになったことは、わが国のインフレ率の弱さを説明できるような要因は複雑に絡み合っており、論点を整理することさえ容易でないということである。
また、それぞれの要因がどの程度の影響を及ぼしており、いずれの要因が重要かという点についても、十分なコンセンサスがあるわけではない。
そうした状況下、理論・実証両面からの研究が続けられ、わが国のインフレ動学に関する知見が蓄積されていくことが望まれる。

つまり、本論文は結論を導出することを目的としたものではなく、あくまで考える材料を与えるものなのだ。
極めてスクエアに、かつよくまとまった論点整理であり、ぜひ目を通すとよい。

近年、欧米先進国の日本化が進んでいる。
金融緩和してもインフレや景気回復が十分得られていない。
あるいは、十分でないと考えられている。
金融政策はほぼ伸び切っており、仮に世界経済が停滞期に入れば金融政策だけで十分な対処は困難とも言われている。
ならば、近年声が大きくなっているように、たとえ財政が万全と言えない国々でも大規模な財政政策で対処していくことになるのか。
こうした世界的なムードの中で、日銀がインフレについて問い直しているのは何を示すのだろう。


日銀をはじめとする多くの中央銀行では物価の安定を最重要の使命(の1つ)に挙げている。
具体的には2%の物価目標だ。
だから2%が実現するか、その目途が立つまで、建前上は金融緩和をやめられない。
仮に緩和継続がバブルを生もうが、格差を拡げようが、金融機関の財務を痛めつけようが、物価が最重要ならば強くブレーキを踏むわけにはいかない。
それほどに物価目標とは大切なものなのか。

日銀も2%物価目標を掲げ、その重要な理由の1つにグローバル・スタンダードを挙げてきた。
それぞれの国と地域で経済や社会の環境は異なるが、為替への影響回避もあって横並びを選択してきた。
その日銀が「日本の経験」を語りだした。
これは日本化する欧米にとってもありがたい論点整理になるはずだ。

それと同時に、日銀は物価目標の相対的重要度、横並びの妥当性に問題意識を高めているのではないか。
日本の社会が日銀に対し、市場の不安定化、格差拡大、金融不安定を軽視するのを許すとは思えない。
また、経常赤字を続ける米国と経常黒字を続ける日本が同じ物価目標というのも少々奇妙だ。
(つまり、こうした経常収支なら、ある程度(たとえば年1%程度)の円高ドル安は(つらいことだとしても)やむを得ないのではないか。
年1%の円高ドル安を許容できるなら、日本の物価目標は(金融政策のやりやすさからは2%が理想でも)1%でもいいのかもしれない。)
日銀がそんなことを考えているのだとすれば、日本の金融政策の枠組みに変化が起こってもおかしくない。

ただし、大きく変わると考えるべきではない。
日本は世界最大規模の金融緩和を実施しており、市場・経済・財政がそれに慣れ切り依存さえしている。
そうそう金融政策、特に長期金利ターゲットを引き締めるわけにはいかないだろう。
だから、日本においても今後は議論のフィールドが財政に移っていくのではないか。
ならばなおさら日銀は手を緩めるわけにいかないだろう。


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