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数年後に訪れる趨勢的停滞:ポール・クルーグマン
2021年3月10日

ポール・クルーグマン教授は、今後1-2年の米経済について強気の見通しを述べた上で、その後に起こりうる「趨勢的停滞」を心配している。


アメリカの朝だ!

クルーグマン教授がThe New York Timesへの寄稿で、米社会の明るい今後を印象付けた。
ワクチン接種が始まり、追加の1.9兆ドルの財政出動にも目途がつきつつある。
教授はこれを素直に喜んでいる。
しかし、今回の寄稿の主題はそれではない。
今後到来するであろう経済ブームの後がどうなるかなのだ。

「私は今後1-2年の経済見通しについてとても楽観的だ。
しかし、その後は、良い時代を続けるために大きな政策が必要になる。」

この点については、声こそ大きくはないものの、多くの人が懸念しているところだろう。
バイデン政権が予定している政策の多くは一過性の刺激策であり、終わってしまえば反動が避けられないとの心配だ。

大規模な歳出が終わると『趨勢的停滞』の状況に戻ってしまう可能性が高い。・・・
趨勢的停滞にある経済にもたまには良い時代があるのだろうが、金融バブルの破裂のような悪いニュースを政策決定者がオフセットするのは困難だろう。

クルーグマン教授は、リーマン危機後の10年が似たような状況にあったとし、エコノミストの間にコンセンサスが広がりつつあると主張する。
米経済の支出や雇用が、本来あるべき水準より低く推移したという。
だから、趨勢的停滞を許容すべきでないといいたいのだ。

クルーグマン教授は、金融市場も将来の趨勢的停滞を予想していると主張する。
最近、金利上昇が騒がれているものの、過去と比べれば上昇ペースがはるかに穏やかであるためだ。
これは、「バイデン・ブーム」後の経済が再び「アンダーパフォーム」に戻ることを織り込んだものだという。

経済予想の不正確さには定評のあるクルーグマン教授だから、このあたりの予想も割り引いて聞いておきたいところだ。
加えて、現在の低い米長期金利を将来の低成長と解釈する妥当性については異論があろう。
中央銀行が先例のない規模の市場介入を行っている今、低金利が低成長の反映とするのには無理がある。
少なくともシャドー・レイト等を計算した上でなされるべき議論だろう。

いずれにせよ、現在の様々な刺激策・救済策を巻き戻そうとすれば停滞に陥りかねないという主張は多くの人が同意するところだろう。
そこで、クルーグマン教授は「多くは借金、場合によって新税による大規模な公共投資プログラム」を打つべきと主張する。
インフレ、気候変動、雇用、経済成長などの目的が掲げられている。
これも、中身の議論こそあれ、多くの人が少なくとも一部の必要性を認めるところだろう。

クルーグマン教授は、こうした方向性について良いニュース・悪いニュースがあると書いている。

良いニュースは、バイデン政権のエコノミストがこれらすべてを完全に理解しており、すでにとても意欲的なインフラ計画を取りまとめるプロセスに入っていることだ。
悪いニュースは、そうした計画を法制化するのが政治的にとても難しいことだ。

この後、クルーグマン教授はいつものように共和党に対する中傷を4段落にわたって展開し、自らの品格の低さをアピールしている。
残念なことに、この人の品のなさは、タイプは異なるが、トランプ大統領のそれに似ている。
心配なのは、こうしたタイプの人が内ゲバ好きであることが多い点だ。
最近、クルーグマン教授は、インフレについて見方の異なるローレンス・サマーズ氏を軽くディスるような発言を繰り返している。

コロナ禍は、世界の国家と国民の間の線引きについて大きな変化をもたらしたのだろう。
自然災害に対して、これほどまでに国家は手厚く国民に施しをしなければならないものなのか。
その線引きに対する社会のコンセンサスが大きく変わった。
コロナ禍だから、どういうわけか全員にお金を配る。
趨勢的停滞という定義のはっきりしない状態に陥るとたいへんだから、景気刺激策を継続する。
これが現在、米国でも日本でも常態となりつつある。

不条理を感じるところも多いが、少なくとも投資家は喜んでもいい。
金融市場はやり方を間違えなければ実体経済以上に刺激策の恩恵を受けうる。
クルーグマン教授の意見を入れて趨勢的停滞を回避するために刺激策を続けるなら、まず投資家が恩恵を受ける。
教授が主張する慢性的な刺激策は教授が恐れる「金融バブル」を生み出してくれる。
教授は一生懸命バブルを崩壊させないため、あるいは、バブル後の尻ぬぐいのために、さらなる刺激策を求めるのだろう。
やり方を間違えなければ、投資家にとってはとても美味しい話であり、一方で社会の格差問題を拡大することになろう。
経済には適度の停滞が時々必要だということがコンセンサスにならないかぎり、このサイクルを抜け出すのは難しい。


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