ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏が投資家に対するアドバイスを求められている。
目新しい点はないが、改めて見直しておこう。
昔の私の失敗は、ほとんどダウンサイドなしに大きなアップサイドを取ろうとしたことだった。
そこで学んだのは、相関のない良い賭け、勝てる賭けを選びうまく分散できれば、期待リターンを減じることなくリスクの80%までを削減できるということだ。
ダリオ氏がMoney Maze Podcastのインタビューで話した。
「昔の失敗」とは1980年代前半に同社が事実上破綻したことを指している。
謙虚さを忘れ、自分のメインシナリオを過信しすぎた故に陥った罠だった。
そこから、ダリオ氏は謙虚であることの重要性を学び、分散によるリスク軽減の技術を研ぎ澄ましていった。
ダリオ氏のいう分散とは決してパッシブな分散ではない。
(単純にパッシブな分散では、80%の軽減とはならないはずだ。)
「私は分散するにあたり悪条件でなく好条件のところに重点を置くバイアスを持っておきたい。」
では、どのような内容にバイアスをかけようというのか。
ダリオ氏は3つ挙げている:
1) 良好な財務: 使うより多く稼いでいるか
2) 国内の対立がないか: 特に左右、貧富の対立
3) 国家間の戦争がないか: 中立国がよい
1)については、ある意味自明といえよう。
ダリオ氏は2)と3)について次のように語っている。
2) 国内対立:
歴史が示しているのは、損失を被る原因が単なる価格変動だけでなく、収用ほかの理由で起こりうるということだ。
自由の国の場合、収用があるかどうかはわからないが、無理筋の重税ぐらいならすぐにでもありそうな話だ。
3) 戦争:
歴史が示しているのは、中立国は戦勝国より経済的に良好となることだ。
英国は戦争に勝ったが、自国が破綻した。
(比較的)中立という観点で具体的な重点地域を3つ挙げている:
- アセアン諸国(シンガポールと周辺国)
- インド
- 湾岸諸国(UAE、サウジアラビア)
ダリオ氏は信念の人だが、同時にしなやかな人物でもある。
業界の中でも中国への取り組みが積極的で、中国での外資ヘッジファンドとしてトップの立ち位置を勝ち得てきた。
米中対立が深刻化する中でも、対立に憂慮し、中国擁護に聞こえかねない発言で批判を受けることもあった。
投資においては、中国投資の重要性を説いてきた。
当時のレトリックは《米中のどちらが勝者になるかわからないなら両方に分散投資しろ》というものだった。
米中対立が激化する中、最近では中国について語る機会は少なくなった。
代わりに力説しだしたのが、中立国というターゲットだった。
先述の3つの地域は一貫して推してきた地域だ。
ダリオ氏は昨年2022年10月、ブリッジウォーターの経営からいったん身を引いている。
同氏はその前からプランを練っていたのだろう。
2020年11月には(今も推し続けている)シンガポールにファミリーオフィスを開設すると発表し、実行した。
今年10月には(これも推し続けている)UAEに別宅兼ファミリーオフィスを取得している。
まさに言行一致といったところだ。
ただし、その後、大きな戦争は1つでなく2つになり、国際情勢はより不確実になった。
湾岸諸国は立ち位置を決めざるをえなくなるかもしれない。
ダリオ氏のことだから、しなやかに対処するのだろう。
(比較的)中立であり続ける地域としてどこが残るだろうか。