政治

戦前ドイツの経済政策と株式市場:レイ・ダリオ
2020年7月21日

ブリッジウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ氏が執筆中の新著『変わりゆく世界秩序』(仮訳)から、米帝国の章の前編、第2次大戦までの部分を紹介しよう。


「私が『ヒトラーは戦争に突入する前に強い経済を築いた』というのを、この過去または現在の敵に対して同情的と感じるなら、私が私の考えを伝える上で政治的正しさよりも正確さや真実を重んじているためであることを理解してほしい。」

ダリオ氏が自身のSNSで、断り書きを入れている。

内容が第2次大戦前と、今でもセンシティブな話題に及ぶためだろう。
ファシズムに対して同情的とされれば、まったく本人の趣旨と異なる批判の的にされかねない。
特に政治や経済への関心が強い人たちの中には、他人の文章・発言に対して最初から自身のイデオロギーという色眼鏡を通して見てしまう人が多いようだ。
そういう人は本当に投資に向かない。
成功する投資家とは、自分のイデオロギーを別として、きちんと利益を獲れるチャンスに取り組める人だからだ。

ダリオ氏のヒトラーについての記述は、ルーズベルト大統領のニューディールと同時進行した現象として語られている。
独裁体制の確立とともに、その経済政策にも言及している。
ダリオ氏によれば、ヒトラーは経済政策にも「独裁的・ファシズム的なアプローチ」を用いたという。

「アーリアのドイツ人のための強い経済を作るため、ヒトラーはすぐさま国有企業を民営化し、企業の借金による投資を推奨した。
生活水準向上を強く支援した。
例えば、ほとんどの人が買うことのできる、手に届く車を作るためフォルクスワーゲンを設立し、アウトバーン建設を指揮した。」

経済政策の目的はともかく、政策の内容、とりわけ構造改革等の手法とはいつも似通ったものなのだろう。
民営化であり、インフラ投資であり、さらに国による産業への強い関与である。
神様が行えばうまくいくのかもしれないし、そうでなければ利益誘導や計画経済の失敗に至るのかもしれない。

ヒトラーは、銀行に国債を買わせることで、大きな歳出増を賄った。
増えた債務は、企業収益や中央銀行(ライヒスバンク)による債務のマネタイゼーションで返済された。
これら政策は概して機能した。

ダリオ氏の景気循環に対する見方は、生産性と債務拡大に重きを置くものだ。
だから、恐慌の中でのMMT的な政策にも(他の選択肢がないこともあり)肯定的な姿勢となる。
ただし、経済政策とは5年間だけを切り取ってみるべきものでもないだろうから、『変わりゆく世界秩序』シリーズの後の方で事の顛末が語られるのかもしれない。
なぜ、今のしまり屋のドイツが誕生したかだ。

ダリオ氏は、こうしたMMT的な政策にも1つ条件を付している。

「これは、ある条件のもとで、自国通貨建ての借金や債務・財政赤字の増大が、高い生産性をもたらすことがあることの1つの例だ。
その条件とは、借金で得られたお金が、債務返済に十分なキャッシュフローより多くを生み出すだけ生産性を向上させる投資に向けられること。
仮に債務返済の100%をカバーできなくても、国の経済目標を達成するにはとてもコスト効率の良い方法になりうる。」

つまりは、ワイズ・スペンディングを徹底しろということ。
確かに、赤字国債発行による財政支出について元が取れることが確信できるなら、反対する人はかなり少なくなる。
しかし、この条件を満たすのは相当に難しい。
それは、ダリオ氏自身が条件を緩和する一文を付していることからも明らかだ。

これら政策の経済効果としては、ヒトラーが権力を握った1933年の失業率は25%だった。
1938年にはゼロになっている。
権力掌握から5年後の1938年までで、1人あたりGDPは22%上昇し、1934-38年では年率8%の実質GDP成長率を遂げている。
成長率上昇と擦りあうように・・・武力戦争勃発まで1933-38年の間、ドイツ株は安定的なトレンドで70%近くも上昇した。

ポピュリストの政策とはずいぶん効果が高いらしい。
失業率が下がり、株価が上がるというあたり、多くの既視感を感じられる読者も多いのではないか。


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