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恐れるべきはリブラでなく中国:ケネス・ロゴフ
2019年11月14日

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授が、中国が計画するデジタル通貨発行について強い危機感を呈している。


読者はFacebookの提案するリブラという(疑似)暗号通貨のことが好きじゃないかもしれないが・・・中国が世界展開を目指す国営のデジタル通貨はおそらく数か月のうちにスタートし、読者はもっと嫌うことになるだろう。

ロゴフ教授がProject Syndicateに書いている。
西側、とりわけ米国に甚大な悪影響を及ぼすデジタル通貨はリブラではなく、中国政府が計画するデジタル通貨だとの指摘だ。

ロゴフ教授は、米ドルの基軸通貨としての地位はまだまだ揺らがないと指摘する。

「米国の深みと流動性のある市場・強力な制度・法の支配は今後長い間、中国が通貨における優位を得ようとする努力を打ち負かすだろう。
中国の厄介な資本規制、外国人による債券・株式の保有制限、金融システムの全体的な不透明性により、人民元は数十年、合法的な世界経済における米ドルの地位を奪うことはできないだろう。」

確かに人民元が米ドルの地位に取って代わるのにはまだまだ時間がかかるだろう。
中国がそれを望むなら資本市場を急激に開放・自由化していく必要があるが、今の中国政府にその度胸があるようには見えない。
もちろん、日本のようにかつて苦しい思いをして開放・自由化しながら、最近になって逆行を始めた国もある。
だから、人民元が相対的に《まし》になっているのは事実だろう。
しかし、それとドルに置き換わるという話では大きな程度の差がある。

残念なことに、通貨が流通するのは表舞台だけではない。
ロゴフ教授は、中国のデジタル通貨が、暗号資産のように、地下経済で普及する可能性を心配する。

世界の地下経済は主に脱税と犯罪行為からなり、さらにテロも含まれる。
これは合法的な経済よりかなり小さいが(おそらく規模で1/5)、それでもとても重大だ。・・・
中国国営のデジタル通貨が広く普及すれば間違いなく影響が及び、特に中国と西側の利益が一致しない分野で起こるだろう。

ロゴフ教授は中国のデジタル通貨のリスクを列挙している。

  • 米国の規制が及ばない。
  • すでに中国経済という大きな経済で普及可能な状態にある。
  • リブラを規制するスイスは中国よりはましかも。
  • ドル決済のところで網がかけられない。

中国のデジタル通貨は、米国や国連などによる制裁に抜け道を作りかねないと示唆している。

ロゴフ教授は著書『現金の呪い』で脱税や犯罪を抑制するために高額紙幣廃止を唱えた人物。
だから、西側諸国と価値感を共有できない中国の発行するデジタル通貨に対して危機感を抱くのも当然のように思える。
しかし、ロゴフ教授の考えはより現実的であり、より的確であるようだ。

この戦いは単に通貨発行益をめぐる戦いではない。
突き詰めれば、国家が経済一般を規制し課税する能力、米国が世界の警察たらんとするために世界におけるドルの役割を用いる能力にかかわる戦いなのだ。

ロゴフ教授の日頃の発言を見る限り、極めてリベラルで開かれた考えの持ち主のように見える。
ワシントン・コンセンサスの下で運営されたIMFでチーフ・エコノミストを務めた人物だ。
その人物が「世界の警察」と書くあたり、やはりワシントン・コンセンサスやIMFは米国のためにあるのだなと痛感させられる。
世界の金融制度が一国の利益にかなうように設計されている。
その国が普遍的に正しい存在ならば問題はない。
しかし、普遍的な正しさなどそもそも存在しないし、かの国のトップは、ワシントン・コンセンサスの建前を逆行するような人物だ。

一歩間違えば、中国に同情する人が増えてしまうかもしれない。
実際、米ドル一極集中の通貨制度には英国EUからも反発の声が上がっている。

ロゴフ教授は、第3の選択肢の必要性を示唆している。

「テクノロジーがメディア・政治・企業を混乱させるのと同様、今、米国がその幅広い国益を追求するためにドルへの信認を利用する能力が混乱させられる瀬戸際にいる。
中国ほかの政府認定のデジタル通貨により起こる混乱への解答はおそらくリブラではないだろう。
しかし、そうでないなら、西側の政府は手遅れになる前に、今、対処法を考えておくべきだ。」


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