9月の強い雇用統計を受けて、雇用の強さがかえって経済・市場に悪材料になるのではないかとの心配が広がっている。
6日発表の9月の米雇用統計は
- 非農業部門雇用者数: +336千人(市場予想+170千人)
- 失業率: 3.8%(同3.5%)、前月と同じ
- 平均時給: 前月比+0.2%、前年同月比+4.2%
と、雇用者数で市場予想を大きく上回った。
「今のところはこれは素晴らしいニュースだ。
経済はとても強く見え、賃金インフレの数字は抑えられているように見える。
中期的には、FRBはとても複雑な構図を読み解かなければいけない。
労働争議、コモディティ価格の不確実性を抱える中、逼迫した労働市場が大きく逼迫度を高めている。」
ローレンス・サマーズ元財務長官がBloobmergで、9月の雇用統計についてコメントした。
インフレ再燃を引き起こしかねない要因はまだ多くくすぶっている。
仮に足下のインフレの数字に表れない場合でも、インフレ上昇を金利が織り込めば、市民は負担増を感じ始めるだろうという。
同氏は経済が強すぎることは喜べないという。
これはソフト・ランディングを保証するようなものではなく、ハード・ランディングのリスクは本当に現実味を帯びていると思う。
サマーズ氏は状況を飛行機に喩え、思うより速く飛べばハード・ランディングのリスクが高まると解説した。
さらに、飛行機が思うより速く飛び続けている理由を問われ、以前より金利では抑制の効きにくい経済になっているのかもしれないと話した。
- 住宅保有者は低い固定金利で借りており、影響を受けにくい。
- 住宅価格が上昇し、保有者は豊かになったと感じている。
- 金利上昇で所得が増える。
- 投資対象は工場でなくAIシステムなど短デュレーションで、金利感応度が低い。
サマーズ氏はもう1つ重要な問題として、米政府の財政問題を指摘した。
足下のGDP成長率のうち3%ポイント以上は財政赤字によるものとし、正味の実力は見かけほど高くないという。
さらに、政府の財務活動が企業・家計に劣っていると苦言を呈している。
民間部門が債務を長期化している時に、政府はQEと財務省の政策により長期化より短期化してしまった。
債務(返済)の壁をどんどん高めてしまった。
サマーズ氏は金利と財政拡大の2点から、市場が思うほどには金利が低下しないと考えている。
市場は気づきつつあるが、さらに少し見直しがあるだろうという。
最近の米長期金利上昇の原因を半分が強い経済、半分が需給と分析した。
「日本での金利上昇で需要が減るかもしれない。
米国債の需要家である中国では何が起こるかわからない。
銀行は、長期債を抱えすぎたSVBの二の舞にならないよう長期債を避けている。」
アリアンツ経済顧問モハメド・エラリアン氏も、強い雇用統計がかえって悪い結果を生みかねないと心配している。
まず、今のところはこれは経済にとってよいニュースだ。
・・・次に、これは市場やFRBにとっては悪いニュースだ。
・・・長期では、これは経済にとっても悪いニュースで終わるかもしれない。
市場やFRBにとって悪いニュースとは何を指しているのか。
エラリアン氏は、FRBがこれまで「政策はデータ次第」と言ってきたことから、前日までないと考えられていた11月1日(FOMC)の利上げの可能性が再浮上したと語った。
同氏は、こうしたドタバタの展開の根源が今回のインフレへのFRBの初動のまずさにあったと考えている。
市場は《高く長く》だけでなく《より高くより長く》も織り込まなければいけなくなった。
これは問題だ。
インフレ・サイクルの初期に出遅れると、最後のところでツケを払うことになる。
今それが起こっている。
FRBはインフレが上昇を始めた時、ディスインフレ/デフレへの逆戻りを恐れるあまり「インフレは一過性」と言い続け、金融緩和を解かなかった。
結果、2%をはるかに超える高インフレを招き、急激な利上げを強いられた。
識者の中には、インフレを後追いするのではなく、先回りすべきとの意見もあった。
どちらの意見が正しいかは、後の時代に検証されることになろう。