バイロン・ウィーン氏が25日ご逝去された。
90歳だった。
メディア等へのエクスポージャーは決して多くなかったが、FPでは一貫してウィーン氏の発言をお伝えしてきた。
極めて知的なストラテジストであり、決してバイアスに囚われず、健全な楽観を保たれた方だった。
私たちは次のようなポイントをいつも注視してきた。
年初恒例のびっくり10大予想
モルガン・スタンレー時代から数えて38年続けてきたサプライズ予想。
サプライズと言いながら、メインシナリオではないかと思わせるものもあり、実際的中することも多かった。
ウィーン氏は自身の予想にコミットするため、定期的に答え合わせを報告するほか、毎年それに基づく1百万ドルのポートフォリオに投資していた。
今年の予想では、実質金利のプラス転換、ドル高継続、原油上昇などがすでに実現したと言ってよい。
一方、株式市場の長期上昇の開始も予想されており、今後が期待される。
毎年10大予想作りは10月にスタートするという。
ホリデイ・シーズンをこの作業に費やすため、バケーションもままならない奥様からはもう続けないよう言われ続けていたという。
年初には会社からの公表の他、いくつもの有力金融メディアが寄稿記事としてこの予想を掲載した。
メディアには会社公表の少し前に全文が配られた。
ありがたいことにFPのような独立メディアにも丁寧に対応してくださり、FPが米国より早く記事を配信(しかも日本語)することもあった。
毎年FPでの年間人気記事の1つとなっていた。
四半期ごとのウェビナー
四半期ごとのウェビナーも投資家にとって貴重な情報源だった。
かつ、ウィーン氏の考え方が滲み出た内容となっていた。
(ヒラリー・クリントン氏が大統領選に出馬した時、ウィーン氏が選挙資金集めの手伝いをしたとの報道があった。
かといって、決して左の人ではない。)
ウェビナーでは中道を感じさせる内容だった。
政策に対する思いを滲ませる時もあったが、それと投資判断を分けて考える規律を持った人だった。
伝統的なセクター・銘柄にも目をやりつつ、テクノロジーへの注目を絶やさなかった。
DDMテーブル
ウェビナーではS&P 500と米10年債の均衡価格を示すテーブルが示された。
横軸に米10年債利回り、縦軸にEPSを取り、S&P 500の均衡価格が計算されているものだ。
株式と債券の競合を意識する米市場では自然な考え方だが、この具体的な数字入りの表は(当たるかどうかは別として)示唆に富むものだった。
にもかかわらず、ウィーン氏はかねがね、この表は予想をするものではない、と言っていた。
あくまで均衡価格を示すものという。
その意図は明らかだ。
株価を予想するとは、EPSなど企業収益ならびに10年債利回りなど金融環境を予想した後に可能になる。
株価を予想するのではなく、横軸や縦軸の数字を予想することが本質という意味だろう。
ラジカル・ポートフォリオ
ウェビナーでもう1つ興味深かったのが、ラジカル・ポートフォリオだ。
ウィーン氏が資産クラスごとの配分を提案していたが、最近は言及がなくなっていた。
2019年のラジカル・ポートフォリオでは、短期的なチャンスに備えるために15%を現金に配分するよう提案していた。
しかし、それ以外はすべてリスク資産に配分されていた。
だいぶ前から現預金・債券の不利を確信していたのだろう。
人生80年×2の教訓
「これが、私が人生の最初の80年で学んだ教訓だ。
次の80年もこれを実践し続けることを願っている。」
2019年ウィーン氏が86歳の頃、人生で学んだ20の教訓を明かしたことがあった。
以下、その要点だ:
- 大きなアイデアに集中しろ。常に知的冒険を続けろ。
- ネットワークを育てろ。人付き合い、メディアへの執筆、検討会主催などを積極的に。
- 初めて会った人は友人として扱え。成功者と仮定して付き合い始めれば、人生に役立ってくれるはず。
- いつも読書し、能動的な読書を心がけろ。読書前から仮説を持ち、それが正しかったか否定されたかを確認しろ。
- 十分な睡眠を。60歳までは7時間、70歳までは8時間、その後9時間。
- 進化しろ。燃え尽きるな。キャリア初期には複雑な計算をやれ。後でコンセプトを作り上げろ。
- 多く旅をしろ。
- 初めて人と会う時は、その人が17歳以前にどのような経験をしたか調べろ。
- 私のフィランソロピーについてのアプローチは、喜びを拡げるものというより、痛みを和らげようというものだ。
- 若い頃は成功を自慢したがるが、40代になるとだんだん謙虚で愛すべき人間になり始める。早くそこに到達しろ。
- がんばってくれた部下をねぎらうのを忘れずに。
- 親切にしてくれた人には手書きの礼状を。
- 毎年初、昨年よりよい仕事をするための方法を考え書き出せ。年末に見直せ。
- 困難な道は常に正しい。近道はダメ。
- ライバルより優れようとは思うな。違いを作れ。必ず、自分より優秀なライバルがいるものだ。
- 新たな職に就く時は、金ではなく最も楽しめるものを選べ。ウィーン氏の最良の2回の就職では大きな収入減となったが、その後ウハウハになった。
- 誰にも完璧な職がある。見えていないだけ。人生の目的は幸福であり、正しい職はそれに必須だ。
- 子どもの有無にかかわらず、面倒を見る年下を見つけろ。人を助けるのはすばらしく、学ぶことも多い。
- 毎年、やったことがなくやりたいとも思わなかったことを何かやってみろ。自己発見になる。
- 「永遠に引退するな。永遠に働けば、永遠に生きられる。」
ブラックストーンからの訃報メールもこの最後の教訓が引用されていた。
まさに天職を全うされた人生だったろう。