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ハワード・マークス 尊敬を集めるハワード・マークス氏が兄弟殺しで追及される
2020年10月20日

オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、Bloomberg視聴者の目の前で珍しく厳しい批判にさらされた。


もはやサイクルを生じさせない – それがジェローム・パウエルFRB議長のマスター・プランだったら、どうなるのか?

Bloombergのエリック・シャツカー氏が、ウォーレン・バフェット氏をはじめ多くの人から敬意を集めるマークス氏に質問した。
市場サイクルを極める』などの著書でサイクルの重要性を説いてきたマークス氏へ向けられた重い質問だ。

このインタビューの主役はマークス氏ではなかった。
主役は間違いなくシャツカー氏だった。

マークス氏はこれまで一貫して金融緩和の行き過ぎに対して疑問を呈してきた。
金融緩和は経済が悪い時に講じ、景気が上向けば取り払うべきと言ってきた。
5月のBloomberg出演でも、同様の趣旨のことを話していた。
一方13日の「Memo」では、米政府・FRBによる迅速な対応を絶賛している。
もちろん危機にあるのだから刺激策を講じるのは当然だし、従前の考え方どおりのことだ。
しかし、1つ変わったように思えるのは、刺激策が永遠に続くことへの危機感が後ろに置かれたように感じられることだ。

そこでシャツカー氏の質問となった。
マークス氏の答は、正しいものの精彩に欠けるものだった。
人間とは行き過ぎるものであり、誰もサイクルをなくすことはできない、というものだ。
もちろん、シャツカー氏が聞きたかったのはそういうことではない。
FRBが(可能かどうかは別として)永遠に景気を持ち上げ続けようとしたらどうなるかということだろう。
仮にマークス氏がいうようにそれが不可能なら(おそらくそれが正解だろうが)不可能となった時に何が起こるのか。
マークス氏が質問の意図を理解しなかったとは思えない。

これがシャツカー氏に火をつけたようだ。
質問を変えてマークス氏を追い詰める。
中でもある質問は極端でもあり勇敢でもあり失礼でもあった。
リターンが極端に小さい中で、クレジット市場の参加者がゼロサム・ゲームに近い熾烈なパイの奪い合いを続けているというものだ。

現在展開しているような、クレジット投資家間の野戦のような状況をこれまで見たことがあるか?
私の知り合いの投資家は、これを『兄弟殺し』と呼んでいる。

この問いに対し、マークス氏は、機関投資家は顧客の利益を最大化するという忠実義務を果たしているだけと答えている。
確かにそれは機関投資家の責務であり、それについて責められるべきではないだろう。
ただし、この話にはもう少し背景があるようだ。
マークス氏は、リーマン危機後のクレジット市場で起こったことを説明している。

  • 12年前から低金利環境が続いている。
  • 投資家の利回り追求の動きが盛んになった。
  • 投資家は争って証券を買った。
  • 発行体の方が優位になった。
  • コベナンツ・保全が取り払われていった。

ここまでは近年特にレバレッジド・ローン市場などで心配された構図だ。
マークス氏は続ける。

「保全がなくなった時、積極的な投資家が、他の投資家とその顧客の犠牲の下で、自身とその顧客のための回復を追求するのが容易になった。」

これでピンと来る人はよほど通の人だろう。
多くの視聴者は理解できなかったに違いない。
とても狭い行間に何が隠れているのか推測してみよう。

多くの発行体がコベナンツや担保を与えることなく借金できていた。
そこにコロナ・ショックが遅い、やや貸し手に有利な金融環境になった。
危機を乗り切るために、あるいは超低金利のうちに資金調達をしようとして、発行体は新たな借金についてコベナンツや担保の設定を受け入れた。
すると、過去の債権者の与信リスクは上昇する。
新たな借金のコベナンツや担保は、古い借金の優位を事実上下げてしまうからだ。

シャツカー氏はオークツリーも「積極的な投資家」の一社だとし、マークス氏を責め立てた。

これはアポロでよく知られたような行動であって、オークツリーのものじゃない。
私や幾人の人たちは、あなたやあなたの同僚が以前は越えるつもりのなかった一線を越える必要があると考えを変えたんじゃないか、と戸惑っているんだ。

実際、オークツリーが投資した案件で、過去の投資家が訴訟を起こした例もある。
マークス氏は個別の案件にコメントしないとし、自社は高い規律を保ち、「一線」を越えたりしていないと答えている。
確かに、こうした件でオークツリーを責めるのは酷だ。
借金を望む発行体がいる時、特に不確実な環境では、ニューマネーの出し手が保全を求めるのは当然のことだ。

シャツカー氏にここまで言わせたのは、マークス氏への高い期待だったのだろう。
こうした状況を生み出したものへ毅然とした批判を続けてほしかったのかもしれない。

最後になってこれがみんなにとって負け試合になる可能性はあるのか?
もしも、みんなが他のみんなをやっつけたとして、あなたが他の人をやっつけた分だけあなたがやっつけられる可能性はあるのか?

マークス氏はいずれの問いにも正面から答えていない。
ただ、機関投資家としての忠実義務を説明し、その意味で他の機関投資家と「兄弟」ではないと主張した。
これほどまでに押し込まれるマークス氏を見る機会はそうそうない。

ビジネスのルールだけに目を向けるなら、シャツカー氏の質問にはやはり無理がある。
しかし、もう少し大きく、経済・市場・社会を見渡すなら、言いたいことは理解できる。
穿った見方をすればこうなる。
長く続いた低利回り(リスクフリー金利にもリスクプレミアムにも金融緩和がおそらく効いている)は、金融市場をゼロサム・ゲームのようにし、最も尊敬を集める機関投資家でさえ厳しい潰し合いの戦いに追い込んでいる。


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