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外国のディスインフレが米国のインフレに:ブリッジウォーター
2021年4月2日

ブリッジウォーター・アソシエイツのボブ・プリンス氏が、米国をはじめとする政策動向についてコメントしている。
レイ・ダリオ氏のファンタジックな語り、プリンス氏の実務的な説明を合わせて聴くことで、彼らの具体的主張を理解してみよう。


すごい量のアドレナリン注射だ。
でも、視野を広げれば、これは現在の新たな環境を反映するものであり、その環境がしばらく続くことを意味している。
これはかつての世界とは大いに異なる。

プリンス氏がBloombergで、バイデン政権でも続くと見込まれる異例の拡張的財政・金融政策についてコメントした。
同氏やダリオ氏が以前から指摘していたとおり、金融政策はMP1(利下げ)、MP2(量的緩和)をほぼ使い果たし、MP3(金融・財政政策の協調)の時代に到達したという。
これは単に政策論の問題でなく、社会全体の考え方の変化を反映するものだという。

これにより同時に国家資本主義と呼ばれるような方向に動き出した。・・・
バイデン大統領の提案は、私たちが到来しつつあると考えるこの種の不可避な変化を反映している。
昨年のパンデミックがその進行を加速させた。

経済政策における中央銀行のプレゼンスが低下している。
かつては金融政策はそれ自体(つまり利下げ)が重要な政策だった。
しかし、MP3の世界では、その役割はもっぱら国債を買い支えることに移る。
新たな主役は、国債を売って得たお金を配る財政当局になる。

「かつてはFRBが3-5%の利下げで経済を刺激し、貸借の経済性を変化させると、(神の)見えざる手のようなものが働いてシステムを通して経済成長を刺激した。
現在、利下げはできないので、お金を意図的に届けたいところに届けることになる。
これは実際のところとてつもない強みになりうる。」

主役が、中立性を重んじていた中央銀行から財政当局に移れば、金融・財政政策は中立性をあまり意識しないものへと変化せざるをえない。
これは近年の、経済を可能な限り徹底的に人為的に操作しようとする風潮を反映したものでもある。
財政当局が神の見えざる手よりも優れていれば、政策は改善することになるし、そうでなければ、弊害も大きくなる。
成否を判断するには時間が必要だが、歴史の中で先例を求めるとすれば、かつての共産主義国家であろう。
そこまで遡らずとも、昨年から今年の日本でも弊害は見えている。
すてきなマスクを配布したり、パンデミック下で旅行・外食に補助を出したり、枚挙にいとまがない。
政治家や役人とはお金を使わせたら天才的な才能の持ち主だ。

プリンス氏は、バイデン政権のMP3に前向きな期待を寄せている。
MP1では難しかった中間層などの支援に重点をおけるためだ。
一方で、裏目に出れば、ドルの価値低下を含めた弊害も大きくなるという。

「MP3でははるかにインフレを生み出す可能性がある。
文字通り、お金を人々の手に持たせ使わせようとしている。
どの人の手に持たせるかも選択できる。」

バイデン政権のお金の配り先は、よりお金を必要としている層に重点が置かれるのだろう。
概して消費性向の高い層になる。
ただでさえ財政を吹かしていて、しかも効率的に消費に転換するのだろうから、インフレになりやすいのは当然だ。

その傾向を認めつつも、プリンス氏は、趨勢的なインフレが起こるとは限らないとも話す。

「趨勢的なインフレ上昇が起こるかどうかは、他にもいくつも要因があり、単に米国だけでなく世界的な問題だ。・・・
低インフレ、安定的なインフレは世界的な現象であり、米国だけの現象ではない。
インフレが上昇するなら、おそらく世界的な現象になろう。」

これは、ダリオ氏が言い続けてきたことと一見相反するように思える。
しかし、決してそうではない。
プリンス氏が「趨勢的インフレ」と呼んでいるのは、実体経済やフィリップス曲線に根差したインフレ昂進のようなのだ。

諸外国の刺激策は米国ほどではない。
特に中国はそうで、中国は安定的な状態だ。
一方で、ある国のインフレはその通貨の影響を受けうる。
だから、ドルが減価すれば、それは諸外国のインフレとの比較で米インフレを押し上げうる。
実際、諸外国のデフレによるものになるかもしれない。

つまり、「趨勢的インフレ」が起こるか否かは世界的な構造変化によるが、そうしたものとは別のところで貨幣的インフレが起こる可能性があるというのだ。
経済の需給や雇用とは無関係に、投資家がドルやドル債を買わなくなることで起こるインフレである。
そして、趨勢的だろうが貨幣的だろうが、インフレはその後の経済・市場を大きく変える。

「インフレがなければ、中央銀行は政府とともに、政策を継続する大きな自由度を持つことになる。
インフレが起これば、インフレと通貨の減価が起これば、障害や制約に突き当たるとこになろう。」

プリンス氏によれば、MP3のパラダイムにまで到達しているのは主に西洋諸国だという。
一方、アジアに目を向けると、状況は大きく異なる:
・高い生産性上昇
・伝統的政策手段が温存されている

「西洋の目だけで世界を見てはいけない。・・・
エクスポージャーの観点から、東西のバランスを取るような考え方をすべきだ。
両方の世界に独特のリスクとともに独特のチャンスをも認識すべきだ。」

プリンス氏は、中国をはじめとするアジアでの投資機会に目を向けるよう促している。

価値の保蔵手段について尋ねられると、プリンス氏は、伝統的な価値の保蔵手段であった現金・国債で価値の破壊が起こっていると述べた。
他の資産クラスを探そうにも、歴史を振り返る限り、そのようなものはないのだという。

過去200年の中で、ある10年間に50-80%の購買力低下が起こらなかった資産はなかった。
現金を含め、どの資産も1回または複数回10年のうちに購買力で見て50-80%の価値の低下を経験している。

この事実に対するプリンス氏の解釈は明快だ。
1つの資産クラスで価値を保蔵するのは不可能ということ。
だからこそ価値の保蔵のために分散が重要になるという。

最良の分散方法は、ポートフォリオを成長の上下で分散し、インフレの上下で分散することだ。
株式市場で言うなら、価値の保蔵手段は、収入やキャッシュフローが景気サイクルの影響を受けにくいもの、あるいは、とても強いバランスシートを有し不況でも逆側に動く銘柄になる。

ビットコインは価値の保蔵手段にならないかと尋ねられると、プリンス氏のトーンは極めて冷淡だった。

「ビットコインは小さな話だ。
でも、小さなものでもリスクは大きい。・・・
分散された価値の保蔵のためのポートフォリオに入れることはありうる。
ほんの小さな部分の話だ。」

ダリオ氏はつい最近までビットコインなど暗号資産に否定的な意見を話していた。
それが今年、突如としてビットコイン等に一定の評価を与える論文を公表した。
決して褒めているとは言い難い内容だが、否定していないことで、暗号資産村の住民たちを大いに喜ばせた。

今回のプリンス氏のトーンを見ても、ブリッジウォーターとして暗号資産に前向きと解釈するのは難しい。
おそらく、ポートフォリオの分散の道具として、極めて小さな構成比で組み込む余地を残そうとしているのだろう。


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